【ガクトレ式】フィジカルコンタクト理論と実践
【ガクトレ式】
フィジカルコンタクト
理論と実践
今回は『フィジカルコンタクトを強くさせる方法』について解説しています。
フィジカルコンタクトの強化のために、多くの選手はウエイトトレーニングなどの重量を扱うトレーニングを行ったり、体幹トレーニングなどの自重によるトレーニングを行っていると思います。
もちろんこれらは重要です。
ですが、フィジカルコンタクトの強さ・弱さは以下の4つの要素によって決まります。
- 体重
- 筋パワー
- 筋を適切に繋げて使えているか
- 身体の使い方
筋力トレーニングを適切に行うことで上の二つ(体重・筋パワー)を改善させることは可能です。
では下の二つはどうでしょうか。
基本的に下の二つに関しては個別でトレーニングを実施しなくてはいけない場合がほとんどです。
稀に知らぬ間に習得している選手を目にしますが、そういった選手はセンスがいいと称されるようなほんのごく一部の選手です。
今回は『筋肉を繋げて使えるようにすること』『パワーを引き出す身体の使い方』の二つにフォーカスして解説を行っていきます。
この二つはウエイトトレーニングと異なり、選手によってはものの1時間で爆発的に成長を遂げることができます。
トレーニング方法だけでなく、『なぜ?』の部分も大切にしながら科学的背景や僕の考えを理論的に解説していきますので、ぜひ選手にその重要性と、変化させるための方法を伝えられるようになっていただけたらと思います。
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フィジカルコンタクトを強くさせるために知っておくべき脊柱の基礎知識
フィジカルコンタクトのパフォーマンスを高めさせる上でまず最初に意識していただきたいのが脊柱の使い方です。
まずは脊柱の構造から解説していきます。
※次章の冒頭にある動画でこの内容を解説しています。一般化して『背骨』と伝えてありますが、専門用語では『脊柱』です。
上の図は脊柱を横から見たものです。
脊柱は横から見ると彎曲した形状になっています。
この彎曲は脊柱を守るために存在しており、二足歩行の生物の脊柱に発現すると言われています。
例えば、二足歩行ができないお猿さんに対して、二足歩行を練習させてできるようにさせると、元々脊柱に彎曲がなかったのが、二足歩行ができるようになると彎曲が発現したりするのです。
彎曲方向は
- 頸椎(図の赤):前彎
- 胸椎(図の青):後彎
- 腰椎(図の緑):前彎
このようになっています。
動画中でも話していますが、脊柱の椎骨一つ一つはそこまで大きな力に耐えることができず、正常な椎骨でも一つあたりおおよそ600kgと言われています。
そのため、椎骨にかかる負荷を分散させる必要があることから脊柱の彎曲は存在しているのです。
このように下からの圧力を赤の方向に分散させることによって椎骨一つ一つに圧力がかかりすぎないようにしています。
特に腰椎部分に関しては胸椎と異なり、肋骨による安定化機構が存在しないため、筋による安定が必要となります。それが腹横筋や多裂筋などといったコアと称される筋であり、これらが機能不全に陥ると様々な障害のトリガーとなってしまいます。
話を戻して、この脊柱の使い方でフィジカルコンタクトで重要となってくるのが二つあります。
それが
・脊柱を一直線にする使い方
・脊柱を屈曲位から伸展位にしながらパワーを出す使い方
この二つです。
次の章で詳しく解説していきます。
【この章のまとめ】
椎骨には彎曲が存在し、怪我を防ぐためにこの彎曲が整っていることは重要となる
フィジカルコンタクトを強める脊柱の使い方
ヒトにおける脊柱の彎曲の重要性はご理解いただけたと思うのですが、フィジカルコンタクトにおいてはこの彎曲を無くすような使い方も大事になってきます。
※この動画の前半・中盤の部分です。
フィジカルコンタクトは大きく二種類に分類することができます。
- 相手のパワーに耐える使い方
- 相手にパワーを伝える使い方
前者はボールキープしているような状態のこと、後者はタックルで相手を吹き飛ばすような使い方をするような状態のことを表します。
それぞれのシーンでどのような身体の使い方が求められるのかを解説していきます。
相手のパワーに耐える身体の使い方
例えばボールキープをしていたりとか、FWでボールを収めるときなど、相手のパワーに対してその場からなるべく動かされないようにしたいシーンを思い浮かべてみてください。
その際には脊柱の彎曲を限りなく少なくするような身体操作が求められます。
先ほど脊柱の彎曲は力を分散させるために存在するとお伝えしましたが、
分散される=力が逃げてしまいやすいポジション
と考えることができます。
そのため、大きな力を出したいときには脊柱を一直線にさせる使い方が理想となるのです。
よく脊柱を反らせたポジションをいい姿勢と捉えて、あらゆる局面でその使い方をしようとする選手がいますが、今回の局面においてはその使い方は不正解であると言えてしまいます。
もちろんその使い方が正解となる局面も存在します。
例えば、高重量のスクワットやデッドリフトなどを行う局面においては脊柱を丸めたポジションだと腰の怪我に繋がりやすくなってしまうのです。
スクワットを行うときの脊柱の使い方と、実際の動きの中での理想的な脊柱の使い方は異なるということを選手には理解してほしいと思っています。
相手にパワーを伝える使い方
この場合には、脊柱を丸めているところから一気に反らせていくという使い方をできるようにしていただきたいです。
この使い方を行うことで、脊柱の伸展運動によって水平方向へのパワーを最大限発揮させることができます。
そして、脊柱の屈曲→伸展という使い方ですが、脊柱全体を使ってダイナミックに動作を行っていくことが重要です。
ダイナミックな屈曲伸展動作は『跳ね起き』のような種目において獲得できるのですが、脊柱の特性を理解することが効率の良い習得には必要となります。
その点に関しては次の章でお伝えしていきますね。
相手にパワーを伝える使い方を行う際には、毎回必ずしも脊柱の屈曲伸展を行う必要はなく、もう一つの相手のパワーに耐える使い方を用いて相手にコンタクトを仕掛けていくということもある程度自分にとって有利な局面においては重要です。
2021年12月27日に投稿したこちらの動画で実際のプレーシーンと共に今回のことをざっくりと解説しているので、より理解が進むと思います。
【この章のまとめ】
フィジカルコンタクトは以下の二つの使い方が求められる
・相手のパワーに耐える使い方=背骨を限りなく一直線に近づける使い方
・相手にパワーを伝える使い方=背骨を屈曲させた状態から一気に伸展させる使い方と一直線のままコンタクトする使い方を使い分ける
脊柱の動きの精度を高めるトレーニング
脊柱の局面ごとの使い方はご理解いただけたと思うのですが、脊柱の動きがそもそも出にくい方とかだと習得が難しいことがあります。
この章ではその場合の改善方法をレクチャーしていきます。
前述しましたが、基本的に脊柱は
頸椎(図の赤):前彎
胸椎(図の青):後彎
腰椎(図の緑):前彎
このように彎曲しています。
これを言い換えると、逆の方向には動きづらいと捉えることができます。
要するに、胸椎は前彎しにくく、腰椎は後彎しにくいということになります。
この特性を理解して指導を行っていかないと習得はなかなか難しくなってしまうことが多いのです。
こちらの動画はその脊柱の動作改善を行うためのトレーニングです。
一般に知れ渡っている『キャットバック』というトレーニングがあり、それと近いトレーニングになるのですが、ガクトレ式では目の活動を利用して胸椎、腰椎の動きを改善させていきます。
通常のキャットバックというトレーニングでは反った時に腰椎が反りやすく、丸まった時に胸椎が丸まりやすくなります。
これは人間の脳が目的の動作を遂行させるために最も可動しやすい関節を選択するという特性によって発生するものだと考えています。
この図は脊柱の可動域を関節ごとに示したものです。
これをみていくと、屈曲伸展方向においては頸椎、腰椎の可動域が大きく、胸椎部分の可動性は乏しいことがお分かりになるかと思います。
伸展方向においては腰椎が非常に強く働きます。
屈曲方向においても腰椎の可動性が強いのですが、そもそものアライメントとして胸椎は屈曲(前彎)しているため、胸椎の方が強く可動することが推測されます。
実際に行ってみても、胸椎は屈曲方向に働きやすく、腰椎は伸展方向に働きやすいことが感じることができると思うので一般的なキャットバックだと不完全なトレーニングになってしまうことが考えられるのです。
これらは目の働きを利用することで修正を行うことが可能となってきます。
目と身体の関係性として、進行方向に目線を向けると可動性が高い関節が強く利用されるという法則
があります。
つまり、目線を上に向けながら脊柱を伸展させると、可動性の強い腰椎が働きやすくなります。
一方、目線を進行方向と逆に向けながら動作を行うと、可動性の乏しい関節が強く働きます。
なので、目線を下に向けながら脊柱を伸展させると、可動性の乏しい胸椎が働きやすくなります。
この反応を利用して、キャットバックにおいて伸展時には目線を下に向け胸椎の伸展を促し、屈曲時にも目線を下に向けて腰椎の屈曲を促します。
こうすることによって脊柱の動作を出しやすくさせることができ、その後のトレーニングの効果を高めることができるようになるのです。
【この章のまとめ】
脊柱は胸椎が伸展しにくく、腰椎は屈曲しにくいので目線を意識させたキャットバックを行うと良い。
胸椎の伸展においては目線を下に向けた状態で伸展動作を行い、腰椎の屈曲においても目線を下に向けた状態で屈曲動作を行うことが重要となる。
地面から力を受け取ること
結局のところ、フィジカルコンタクトとは、
地面に力を加え、受け取った反発を筋収縮のパワーとタイミングによって増幅させ、それを逃さず相手に効率よく伝えること
と定義づけることができると考えています。
そして、上記は以下の4つのフェーズに分けて考えることができます。
- 地面に力を加えるフェーズ
- 力を筋によって増幅させるフェーズ
- 力を動作のタイミングによって増幅させるフェーズ
- 得た力を相手に伝えるフェーズ
これらのフェーズのうち前章までの脊柱の動作において『力を動作のタイミングによって増幅させるフェーズ』の改善を試みてきました。
本章では『地面に力を加えるフェーズ』の改善について触れていきます。
『力を筋によって増幅させるフェーズ』はウエイトトレーニングや自重トレーニングによって培うことが可能で、最後の『得た力を相手に伝えるフェーズ』は次章でお話しています。
地面に力を伝えることにおいて最も重要なことは『股関節を使うこと』です。
前章動画の中盤でも軽く説明を行っています。
軽く触れると述べた理由は、股関節について知っておくべきことが多すぎるため、こちらの記事を読んでいただきたいからです。
基本的に股関節、特に臀筋による発揮トルクはフィジカルコンタクトにおいて非常に重要となってきます。
これはフィジカルコンタクトだけでなく、アジリティ要素などにおいても同様で、地面に大きな力を加えなければいけない瞬間においては必要不可欠な場合が多いです。
上の記事中で
・股関節の重要性
・臀筋群の重要性
・股関節をうまく使えるようにさせるトレーニング
・壁を用いて角度を付けながら股関節を使うトレーニング
このあたりをチェックしていただき、最後の壁を用いた際の『壁』がコンタクトする相手に置き換わるイメージでトレーニングを行ってみてください。
ちなみに上にある動画の後半で簡単に触れておりますので、そこをみた上でさらに理解を進めたい方は股関節の記事をご覧ください。
【この章のまとめ】
フィジカルコンタクトは
『地面に力を加え、受け取った反発を筋収縮のパワーとタイミングによって増幅させ、それを逃さず相手に効率よく伝えること』
で定義づけでき、それらを4つのフェーズに分けてトレーニングを行うことが重要となる
相手の勢いを弱める手の使い方
前々章動画の後半にて、手の使い方を解説しています。
そちらも合わせてご覧ください。
フィジカルコンタクトでは4つのフェーズが重要とお伝えしました。
この章では4つ目の『得た力を相手に伝えるフェーズ』について解説していきます。
相手に力を伝える際に考えるべきことは以下の3つです。
①手で力を伝える場合は手のどこで相手を押すようにするのか?
②相手の身体のパーツのどこに手を当てるのか?
③腰で力を伝える場合はどのような使い方をすればいいのか?
これらについて順に解説していきます。
①手で力を伝える場合は手のどこで相手を押すようにするのか?
実際の動作説明に入る前に、少し手について学んでおきましょう。
手は操作側と支持側に分かれています。
操作側は第1~3指〜橈骨まで、支持側は第4,5指〜尺骨までになっています。
操作側と支持側をわかりやすく分化させる例として、手のひらの親指側に体重を乗せて腕立て伏せを行った場合と、小指側に体重を乗せて行った場合とでその行いやすさをチェックすることがいいと思います。
このときは後者の方が圧倒的に行いやすくなるはずです。
逆に文字を書いたり、器用な使い方が求められる局面においては小指側でなく親指側を用いた方がうまくいきやすいと思います。
これは足でも同様であり、操作側は第1~3趾〜楔状骨〜舟状骨〜距骨、支持側は第4,5趾〜立方骨〜踵骨となり、例えば歩行などでは初期設置などといった身体を安定させたいフェーズでは支持側を利用し、立脚終期からの蹴り出しの際には操作側を用いたりします。
また、専門用語では操作側を内側支持機構、支持側を外側支持機構と呼びます。
さて、この分化はなぜ発生したのか、理由を考察してみると、人間発達学において人間は支持→操作の順で動きを習得していくことが理解を進めるにあたってキーポイントだと思っています。
例えば、赤ちゃんは『食べる(噛む)』『物を掴む、操作する』『歩く』といった生きる上で必要な動きを習得していく際に、
・『食べる(噛む)』=首が座ることによって咬筋の筋出力などが安定する。
・『物を掴む、操作する』=ハイハイの段階から腰が座るとより物を掴んだり操作することが可能となる。
・『歩く』=首が座り、腰が座り、初めて外側支持機構によって立つことが可能となる。外側支持機構で安定して立てるようになると内側支持機構を利用した歩行が可能となる。
このように動作は、支持→操作の順で習得がされるのです。
支持や安定がされるから操作が上達し、操作が上達するからさらに支持や安定が上達するという流れになることが分かるのですが、支持と操作が分化されていないと動作は遂行しにくくなることは十分考えられるかと思います。
要するに、生きるために支持と操作を分化させたといっても過言ではないのです。
話を戻して、ようやく実際の動きの説明に入るのですが、ここまでをご理解いただくと手のどこを使えばいいのかがわかると思います。
手を使う際に重要となるのは、支持側(外側支持機構)で相手を押すことなのです。
よく手のひら全体で相手を押そうとする選手がいるのですが、それだと相手の勢いをうまく止めることが難しくなってしまいます。
②相手の身体のパーツのどこに手を当てるのか?
手の小指側を使うということはお分かりになったと思うのですが、その小指側で相手のどこを押すのかということも重要となってきます。
結論から述べると、相手の胸の中心(胸骨の中心)を押すことが重要となります。
人間のロコモーション(移動)は基本的に胸から行われます。
進化の過程を辿っても、あらゆる動物は胸を移動させるようにしてロコモーションを行っています。
例えば四足歩行の生き物を見ても、胸が進行方向に先行していることがわかると思います。骨盤から動くことなどないのです。
『フィジカルコンタクトを強める脊柱の使い方』の章の動画のように実際に試してみるとわかりやすいのですが、胸から移動する感覚を持った方が骨盤や足から動かす意識を持つよりも動きやすいと思います。
この特性を利用して、フィジカルコンタクトの際には相手の胸骨の中央を目掛けて手を出していくのです。
こちらのシーンで如実に現れているのですが、オフェンス側は胸骨の中心に手を置きにいっています。
ディフェンス側の方は追いついている側なので推進力は出ているはずなのにコンタクトした瞬間にその推進力は大きく失われていってしまっています。
この使い方はフィールド全選手ができるようにしてほしいもので、例えば止まって相手を背負う瞬間などにも利用できるような使い方です。
③腰で力を伝える場合はどのような使い方をすればいいのか?
①、②では手の使い方を説明していきましたが、腰で相手とコンタクトするケースについて説明していきます。
こちらの動画内で相手の重心に対して斜めに進入させていくと良いとお話しています。
ここではその理由について仮説を立てて解説していきたいと思います。
これを理解するにあたって理解していきたいことが耳の構造です。
こちらの画像は耳の前庭を示したものです。
ここで注目していただきたいのが卵形嚢・球形嚢・三半規管です。
これらはバランスを司っていると言われ、卵形嚢は鉛直方向、球形嚢は水平方向の直線の外力(重力や遠心力)や姿勢変化を感知し、三半規管は回転方向を感知します。
実は鉛直、水平、回転方向はそれぞれ独立して感知されるようになっているのです。
これは何を意味するのかというと、斜め方向に対するバランス維持や2方向から同時に力が加わることに対するバランス維持に人間は弱いということになります。
例えば、コンタクトにおいて水平方向から向かってくる力よりも、上からや下からくる力に対しての方が弱かったりするのです。
そのためフィジカルコンタクトを行う際も斜めから相手の重心(ヘソの下)に進入していくことが重要となるのです。
【この章のまとめ】
フィジカルコンタクトの際には以下の3つが重要となる
①手で力を伝える場合は手のどこで相手を押すようにするのか?
→小指側(外側支持機構)で押すこと
②相手の身体のパーツのどこに手を当てるのか?
→胸骨の中心に手を当てること
③腰で力を伝える場合はどのような使い方をすればいいのか?
→相手の重心に対して斜めから自分の重心を当てること
『筋筋膜の繋がり』を整えてコンタクト能力を高める
この章では筋筋膜の繋がりという概念からフィジカルコンタクト能力の向上させていく方法を解説していきます。
筋筋膜の繋がりに関しては多くの研究者などによって提唱されていますが、この章では
- 体幹筋群
- 臀筋群
- 広背筋
これらをメインに解説をしていきたいと思います。
フィジカルコンタクトでは地面から力をもらう際には臀筋群が強く働き、相手に力を伝える際には広背筋から腕の筋群が強く働くことが考えられます。
この二つの筋群は背中にある菱形の胸背筋膜によって繋がっています。
※図では「胸腰筋膜」とありますが、「胸背筋膜」と同義です。
そのためこの広背筋ー臀筋群のルートが強く働くような状態にできると大きな力を出すことができるようになるのです。
ただその前に『腹横筋』のアクティベーションも含むことができるとより効果的にこれらのルートを刺激することができるようになります。
腹横筋は
上肢の動きの0.03秒前
下肢の動きの0.11秒前
に先行して収縮すると言われており、胸背筋膜を介して広背筋や大臀筋と解剖学的な繋がりを有しています。
そのためこの筋を最初にアクティベーションできると効率よくトレーニングに移ることができるようになるのです。
また、同時に他のコアと呼ばれる筋群もアクティベーションできるとさらに良いです。
コアとは
- 腹横筋
- 多裂筋
- 横隔膜
- 骨盤底筋群
これらで構成されており、これらが働くことによって腹圧を高めることができます。
腹圧の向上により、脊柱を安定させることができる他、重心を下げることが可能となりフィジカルコンタクトをさらに強めることができるようになるのです。
特に重心は腹式呼吸を行っている最中により下げることができるので、フィジカルコンタクト時に胸式呼吸と腹式呼吸で使い分けてみるとその差がわかるかと思います。
動画中では腹横筋、間接的に横隔膜、多裂筋のアクティベーションを行っており、これらの直後に臀筋群や広背筋のアクティベーションを実施するとよりその反応性を高めることが可能となるのです。
先ほど腹横筋は四肢の動きに先行して収縮すると述べましたが、その特性を利用して臀筋群のアクティベーションを行うことも効果的です。
動画のように手に何らかの負荷をかけることで腹横筋が収縮状態になるので、臀筋群により大きな刺激が入りやすくなります。
最後にこれらのトレーニングを行っていく上で理解していただきたいことがあります。
それが『エキセントリックの意識』です。
筋肉には三種類の収縮様式が存在します。
- アイソメトリック収縮
- コンセントリック収縮
- エキセントリック収縮
この中で筋出力の向上を求める際にはエキセントリック収縮を用いて行なってあげることが重要となります。
というのも、神経系の適応(EMG活動)と筋肥大効果はエキセントリックトレーニングにおいて有意に大きい(Hortobagyi et al,1996)と言われているからです。
教科書的にもエキセントリック収縮によって発生される筋力はアイソメトリックおよびコンセントリック収縮よりも大きいと言われていることからも、なるべく多くの運動単位を動員させようと思った時にはエキセントリック収縮を取り入れるべきだと考えられます。
こういったアクティベーション時だけでなく、トレーニングプログラムを組み立てる際にもこの考え方は重要で、
トレーニング動作にエキセントリックな成分を含めることにより、エキセントリック成分を取り除いたコンセントリックのみのトレーニングと比べて、有意に大きなスクワット筋力の増加率を得ることができた(Hakkinen & Komi,1981)との報告があり、ハーフスクワットや垂直跳びの向上率も有意に大きくなった(Colliander & Tesch,1990)との報告や、獲得された筋力と筋肥大効果の保存期間も長い(Hather et al,1991)との報告もあることから、トレーニングプログラムを組む際にもエキセントリック収縮を取り入れることは非常に重要であることが考えられます。
逆説的に考えると、あまり動員したくない筋はコンセントリック収縮で、動員したい筋はエキセントリック収縮でウォーミングアップとしてのアクティベーションを行なってあげるとリハビリなどでも効率よくアライメント改善や動作改善をすることができるようになってきます。
以上のことからエキセントリック方向はそれぞれ
- 腹横筋:腹部を膨らます方向
- 多裂筋:足を下ろす方向
- 臀筋群:骨盤を下ろす方向
- 広背筋:腕を伸ばす方向
になり、この方向に対して負荷をかけたり意識を向けさせることが重要となります。
【この章のまとめ】
フィジカルコンタクトは『コア筋群』『臀筋群』『広背筋』をアクティベーションさせることで出力増加や重心の低下により強化することができる
またこれらのアクティベーション時にはエキセントリックの意識を持つとより効果的に行うことができるようになる
体幹の3つの役割と鍛え方
前の章で筋筋膜の連鎖から繋げることについて考察していきましたが、ここではそれらを用いて鍛えるということ行っていきたいと思います。
まず考えていきたいことが体幹部分です。
腹横筋やその他コアの筋は筋筋膜連鎖をみても様々な繋がりを有しているため、ここに対してトレーニング刺激をうまく加えることができるとよりフィジカルコンタクトは強くなることが考えられます。
体幹部分を考えていく際に、鍛え方を3つに分けて考えていきます。
①いいポジションを知る、そこでキープさせること
②一気にいいポジションをつくりだすこと
③体幹で大きなパワーを出すこと
それぞれみていきましょう。
①いいポジションを知る、そこでキープさせること
そもそも『いいポジション』とはどのような状態を指し示すのか?
極論、『いいポジション』は局面に応じて変化するのですが、一フィジカルコンタクトにおいては『大きな力が出せるようなポジション=いいポジション』であると置くことができると思います。
最初の章でも述べたように、脊柱は一直線の状態にすることで、地面からの力を分散させることなく伝達させることができるようになります。
そのため、トレーニング時において脊柱を一直線にさせた状態にすることと、その状態で負荷をかけることがここでは重要になるのです。
その際に、『プランク』と呼ばれるトレーニングを行っていくのですが、ここでより効果を高めていくためにプランクポジションごとの腹横筋の活動について考えていきます。
こちらの写真は一般的なプランクポジションにおける腹部の筋活動をエコーでみたものです。
このときの被験者はプランクポジションで30秒以上キープさせることが容易な男性だったのですが、腹横筋の筋活動はほとんど確認できませんでした。
また、こちらの写真は先ほどと同様の被験者に対して、30秒あたりで限界を迎えるように肘のつく位置を前にさせた状態での腹部の筋活動です。
内・外腹斜筋の筋活動はそこまで変わりませんが、腹横筋の活動が大きくなっていることが確認できるかと思います。
このことから、腹横筋による脊柱の支持を達成させるためには一定以上の負荷が求められるのです。
一般的なプランクポジションが行える方は動画のように肘のポジションを前にさせていき、最終的にバンザイのポジションで行えるようにしてみてください。
このときの注意点として、強度を高くした結果、腰が反ってしまったりすると腰痛の原因にもなってしまいますし、そもそも大きな力を出せるような脊柱の状態でなくなってしまうので、あくまで脊柱の状態を基準として行うようにしてみてください。
②一気にいいポジションをつくりだすこと
プレー中常に脊柱を一直線にさせ続けることは非現実的なので、大きなパワーを出さなくてはいけない瞬間に脊柱をパワーの出やすい状態にさせることが次に重要となります。
そのときに実施していきたいのが動画中の『スイングプランク』という種目です。
このときに、ただ行うのでなく、一回行うごとに止まったポジションで上から腰を押してみて本当にいいポジションなのかをチェックするとトレーニング効果は高まりやすくなります。
③体幹で大きなパワーを出すこと
人間の進化の過程において、体幹の筋というものは安定性にのみ働くのでなく、ロコモーションを行うために最初は進化していきました。
例えば、ヤツメウナギなどといった生物は体幹を動かすことにより移動を試みており、そこからよりエネルギーを少なく移動ができるように尾ビレなどが発達し、それが現代人における足へと進化していったのです。
このことから、体幹筋はロコモーションのために発生したことが考えられるのです。
また、体幹部分の爆発的な屈曲伸展動作は大きなパワーを生み出すことができるので、体幹部分を安定させるトレーニングだけでなく、体幹部分で爆発的なパワーを生み出すトレーニングも行っていくべきであると考えられます。
その際に行っていただきたいトレーニングが『ゆりかご』と『跳ね起き』です。
動画中ではゆりかごについて解説しておりますが、これは体幹部分をロコモーションのために用いることで進化学に基づいて合理的なトレーニングであると考えられるのです。
また、跳ね起きでは脊柱を屈曲から伸展方向に爆発的に動かしていくので、フィジカルコンタクトの脊柱の使い方を学ぶことにおいても重要です。
【この章のまとめ】
体幹部分を鍛える際には以下の3つを考慮することが重要となる
①いいポジションを知る、そこでキープさせること
→脊柱を一直線にさせてその人に合った強い負荷をかける
②一気にいいポジションをつくりだすこと
→①のポジションを一瞬でつくりあげるようにすること
③体幹で大きなパワーを出すこと
→体幹を用いてロコモーションや爆発的パワーを生み出すこと
まとめ
さて今回はフィジカルコンタクトを向上させる方法について解説していきましたが、片っ端からこれらを行うことよりも、選手一人一人の伸び代をしっかりと理解した上でトレーニングを処方してあげることが重要となります。
例えば、筋力的に脊柱の支持ができない選手に脊柱を一直線にさせながら実際の対人を行わせようとしても効率的に成長を届けることは難しいですし、脊柱の屈曲伸展を四つ這いでできない選手に対人の中で爆発的な脊柱の使い方を身に付けさせることは効果的ではなかったりします。
正しく見極め、それぞれの選手に合った指導順を見つけることができるとより効率的な成長を届けることができるようになるので、ぜひ色々と試しながらトレーニング指導をしてみてください。