“キレ”とは何か? キレを高めるトレーニングメニュー作成方法
どうも、サッカー専門のトレーナーGAKUです。
これまでトッププロからアマチュアまで様々な選手にトレーニングやケアの指導をしてきましたが、よくいただく悩みの一つに「キレをあげたい」というものがあります。
この「キレ」と呼ばれるもの、利便性が高いためよく耳にするのですが、一方で非常に抽象度の高い言葉でもあります。
要するに、何だかよく分からないけど使ってしまっている言葉です。
皆さん一様に「キレを上げたい」「キレを取り戻したい」というのですが、何をどうしたらキレが高まるのかを理解していない方が多いかなという印象をもっています。
今回の記事では抽象度の高い「キレ」を言語化して、トレーニング方法も含めてお伝えして、少しでも皆さんのトレーニングにプラスの影響をもたらすことができればと思っております。
選手向けになるべく分かりやすい言葉選びをしていくので、どうぞ最後までお付き合いください。
キレの要因①:RFD(力の立ち上がり率)
「キレ」を高めるために必要な要素を3つに分けて考えていきます。まず一つ目はRFDと呼ばれるものです。
99%の方にとって馴染みない言葉だと思いますが、順を追って解説していきます。
これを分かりやすく解説するために一つ例えを出します。
皆さんサッカーをやるときに100%の力って出さないと思います。
正確にいうと出さないというより出せないという表現ですね。
ここでいう100%とは、めっちゃ重いスクワットをやるときみたいな力の出し方のことで、サッカーにおいては全力でシュートを打つ瞬間やフィジカルコンタクトを行う際においてもそういった力の出し方はしませんよね。
100%の力を出そうと力を振り絞るけど、サッカーのプレー中には100%の力は出ない。
これがなぜか?という話です。
こちらのRFDを説明した図をご覧ください。(図が苦手だよという方は図は見なくていいです)
縦軸は力、横軸は時間を表しています。
そして、Fmaxが最大の力(100%の力)が出ている点を指し示しています。
これを要約すると
ということ。
この図から、100%の力が出るまでに0.4~0.5秒くらいかかるわけですが、サッカーで力を出す瞬間というもののほぼ全ては0.1~0.2秒くらいで終わってしまいます。
例えば、全力疾走をしている最中の地面の接地時間は0.1秒くらい、初速の1歩目とかも長くて0.3秒くらいです。
つまり、100%の力を出すところまで辿り着く前に運動自体が終わってしまうわけです。
ここからが重要なポイントで、100%の力が出るまでに0.4~0.5秒必要と書きましたが、この時間は人それぞれ異なります。
100%の力が出る瞬間が比較的はやく訪れる選手もいれば、かなり遅くに訪れる選手もいます。
この100%の力が出る瞬間までにかかる時間が短い選手をRFDが高い選手といい、時間が長い選手をRFDが低い選手と呼んだりして、RFDが高い選手こそが冒頭の「キレがある状態」であると言えるのです。
言い換えると、
になります。
キレの要因②:地面反力
続いて地面反力と呼ばれるものについてです。
人間が動く際には、『何かに力を加えてその反力を得ること』が必要となります。
サッカーにおいて、人間が移動する反力はほとんどが地面によってもたらされます。
この地面反力を重心を動かす力に効率よく変換できるかがキレを出すためには重要となるのです。
地面から力を受け取ること=地面反力
ということになります。
地面反力を大きくさせるためには
『どれだけ大きな力を地面に加えられるか』
『反力をどれだけ逃さずに重心を動かす力に変えられるか』
の二つに分けて考えることができます。
前者はRFDとか、爆発的パワーが大事となります。この章では後者について考察していきます。
どれだけ反力を逃さないかという観点においては、どこで反力は逃げるのか?を考えると良いと思っています。
逃げやすいポイントを挙げてみると
このあたりになります。
一つ一つみていくとキリがないのですが、こういった箇所で力が逃げてしまっていると重心を動かす力が弱くなってしまいます。
つまるところ、
それがキレに繋がってくるのです。
キレの要因③:重心の効率移動
最後に重心移動の話です。
結局、いくら効率よく地面に力を加えて、それを逃さずに重心まで届けても、重心移動の軌道が微妙だとキレにはつながってきません。
もしレーシングカーと一般乗用車がタイムを競うとして、いくらレーシングカーの方が速くても、移動距離が長ければ乗用車よりもタイムは遅くなってしまいます。
なので、重心がどのような軌道を描いて目的地まで辿り着くかというのが非常に重要であり、これが極限まで効率化されたものが「キレがある」状態に近づくのです。
重心とは、ほとんどの場合においてヘソの少し下あたりにあります。
この重心が目的地に対して最短距離を描きつつ、なおかつ要因①と要因②も同時に達成される軌道を描くようにすること、つまり3つの条件を同時に満たす必要があるのです。
これを言葉で説明するのは非常に難しいのが本音。
ちょっと話を変えましょう。
こちらの投稿をご覧ください。
1人目の選手と、2人目の選手を比較すると、2人目の選手の方が目に見えて速いし、一般的にいう「キレがある」状態に近いと思います。
そんな2選手の重心移動を比べてみると、1人目の選手は上下動が少なく一定、2人目の選手は上下動がかなり大きくとられていますよね。
話を戻して、重心は最短距離を描くことが望ましいと書きましたが、ここで矛盾が生じています。
実を言うと、重心を上下動させたほうが地面反力を受け取りやすくなるので必ずしも最短距離である必要はないわけです。
ここまで挙げた要因①〜③をいかに全て満たすような動作にできるかが、「キレ」と呼ばれるものを出すために重要なことになってくるのです。
要因①〜③のちょうどいいバランスが大事ってことですね。
ぶっちゃけ、他にも「キレ」を高めるために必要なことはたくさんありますが、まずは今回紹介した3つの要素を満たすようにトレーニングしていくと良いでしょう。
キレを高めるトレーニング方法
さてここまで理論をお伝えしていきましたが、ここからはトレーニング方法を解説していきます。
まず、RFDや爆発的パワーを向上させる方法からです。
ここで意識していただきたいことが
・バリスティック系のトレーニングを行うこと
・反動を使うセットと使わないセットを分けること
・30~45%1RM(マックスの30~45%くらいの負荷)くらいの負荷で低回数のトレーニングを行うこと
バリスティックトレーニングとは、例えばスクワットジャンプやメディシンボールスローなどです。
スクワットジャンプはある程度為末さんのYoutubeが参考になりますが、本当に効果を出すのであれば
・10回でなく、4回1セットで行う
・連続でなく1回1回なるべく高くジャンプすることを意識する
これらを意識して行ってみてください。
追い込んだ方がトレーニングになると勘違いされやすいのですが、RFD向上や、爆発的パワー向上においては4回で回数を留めておくことが非常に重要となります。
また、反動を使うか使わないかも考えるべきポイントだったりします。
地面反力を高めるコツとして、RFD向上と爆発的パワーの向上が大切とお伝えしましたが、RFD向上のためには反動は使わない方がよく、爆発的パワー向上のためには反動を最大限に使った方がいいと言われています。
なので為末さんの動画のように連続で行ってしまうとRFD向上にはアプローチしづらくなってしまうのです。
ただ、RFDも爆発的パワー、どちらも大事なので、セットを組むとしたら
反動ありで4回2セット
反動なしで4回2セット
みたいな組み方にしてみてください。
重量ですが、本来であれば1RM(1回ギリギリ上がる重さ)を見つけて、そこから30~45%の値を算出したりします。
もっと厳密にいくなら、バーの挙上速度を測ったりして、最も効率のいい重さを見つけていく作業をしたりします。
ですが、そこまで面倒という方は
これを元に重量を決めてください。
どんなに強い選手でも50kgくらいなので、そのあたりで実施してみてください。
続いてメディシンボールスローですが、ここでもRFDを高めたいのか爆発的パワーを高めたいのか、このどちらを高めたいのかによって選択する種目が変わります。
メディシンボールは環境がないとできない種目なので、ここではさらっとお伝えします。
もしRFDを高めたいのなら
チェストパススロー
スラムスロー
※これの後半のトレーニングです。
爆発的パワーを向上させたいなら
バーティカルスロー
ローテーション(サイド)スロー
これら全て、メディシンボールの重さは4~6kgでやってみてください。小学生などは1~2kgが推奨です。
セットは4回3~5セットくらいでやってみましょう。
正直、これらの種目だけでも効果は実感できます。メディシンボールの環境がない方はスクワットジャンプだけでもかなり効果が高いです。
何度も言いますが、追い込ませることだけがトレーニングではないです。
特にキレを高めるようなトレーニングの際には低回数でスピードをなるべく速くさせるよう意識して行ってみてください。