【ガクトレ式】股関節トレーニング〜アジリティ動作強化トレーニング徹底解説

【ガクトレ式】

股関節トレーニング〜
アジリティ動作強化
トレーニング徹底解説


 

今回の記事では「股関節」について詳しく解説しております。

よく巷で言われていることとして

「サッカー選手はお尻をしっかり鍛えたほうがいい」
「サッカー選手は股関節をうまく使えた方がいい」

このあたりが挙げられるかと思います。

これはアジリティやスピード要素、フィジカルコンタクトの強化、怪我予防においても非常に重要となるポイントです。

上記のようなことは近年、一般レベルでも謳われていることですが、なぜお尻を鍛えたり、股関節をうまく使えた方がいいのかを説明できるでしょうか?

『なぜ?』ということを置き去りにして、ただ臀筋のトレーニングをしても、薄っぺらいセッションにしかなりませんし、選手のためになりにくいです。

今回の記事では、より理解が深まるように科学的背景や僕の考えを理論的に詰め込みました。

股関節に関して理解を深めていただき、最終的には選手にその重要性と変化させるための方法を、ぜひ伝えられるようになっていただけたらと思います。

このコンテンツを購入していただいた方には、後悔させないコンテンツに作り上げた自負があります。
一緒に日本のサッカー選手に、素晴らしい価値を届けていきましょう。

 

実際の指導の様子(J1選手へ1時間のパーソナルトレーニング)

この動画はセレッソ大阪に所属する新井晴樹選手に『お尻をうまく使えるようになりたい』『切り返し能力を高めたい』というご要望を受けて行った1時間のパーソナルトレーニングです。

選手の裏話など、公開できないところ以外はノーカットでお届けしておりますので、その臨場感や言葉の選び方をぜひご覧いただけたらと思っております。

オススメは動画を最初に見ていただき、次の章からのエビデンスや説明動画を閲覧して、もう一度動画に戻ってきてセッションへの落とし込み方を学ぶという流れです。

ただ、学ぶ順番に関してはそれほど重要でないので、好きな順でご覧なっていってください。

 

1. 下肢三関節の構造から股関節の重要性の理論的解説

ここからの章は文章で解説を行っていきます。

まず下肢のメジャーな関節構造について考察していきます。

下肢のメジャーな関節といえば、

  • 股関節
  • 膝関節
  • 足関節(距骨下関節&距腿関節)

この4つが挙げられます。(本当は全部の関節について解説したいのですが、キリがないので今回はこの三つに絞ります)

それぞれの関節の構造を見てみると、

  • 股関節=球関節
  • 膝関節=顆状関節
  • 距骨下関節=顆状関節
  • 距腿関節=蝶番関節

このようになっているわけです。

この『顆状関節』は解剖学的には『蝶番関節』に分類されることがあり、説明の際に『蝶番』という構造名を使用すると非常に便利なため、ここでは股関節以外のものを『蝶番構造』と呼ばせていただきます。

まず『蝶番』という言葉の意味ですが、『つなぎ目』という意味を持ち合わせています。
蝶番という構造はよくドアに使われているので、教養のある選手とかだと蝶番と聞いてすぐにイメージを沸かせてくれたりします。

画像1

(↑これのことですね。)

やってみるとわかるのですが、蝶番の部分にどんなに力を加えてもドアは動きません。

しかし、ドアノブに力を加えると簡単にドアは動くわけです。

要するに、

蝶番構造は末端が動くことによって“結果的に”動くものと捉えることができます。

つまり、蝶番の動きは末端の動きに依存するという捉え方ができることになります。

これをこの章の最初に述べた4つの関節に置き換えると、股関節以外は他の関節の動作に依存して関節角度が決まる関節だと考えることができます。

っていうことは股関節以外は蝶番構造と言い換えることができることから、下肢の関節の多くは股関節の動きに依存するということになるわけです。

もちろんそんなに単純なものではありませんが、関節の自由度という考えを元にしても、

  • 股関節=自由度3
  • 膝関節=自由度1
  • 足関節=自由度2

(自由度の数字が高いほど多方向に可動する)
となることから、股関節は下肢運動の軸になりうる関節であると考えることが可能になってくると思っています。

【この章のまとめ】
股関節は関節構造的に下肢の他の関節よりも動く幅が広いので、他の関節よりもうまく機能させることが重要となる。

 

2. 『モーメントアーム長』『生理学的横断面積』『関節トルク』を理解して臀部の重要性を解説してみる

ここまで股関節の重要性について説いてきましたが、2章では股関節のどこを使えた状態が理想なのかという話をしていきます。

これを理解していくにあたり、知っておいてほしいワードが3つあります。

  1. モーメントアーム長
  2. 生理学的横断面積
  3. 関節トルク

ちょっとだけ物理の世界に入るので我慢してください。ただ、どうしようも難しい場合はこれら3つの説明は最悪すっ飛ばしても構いません。

 

①モーメントアーム長

例えば、てこの原理を利用して棒で大きな岩を動かすところをイメージしてみてください。

スクリーンショット 0004-01-06 20.09.24

このようにA、Bそれぞれのように行った場合、より簡単に岩を動かせるのはBになります。

この理由は下の図をご覧になるとお分かりになると思います。

スクリーンショット 0004-01-06 20.11.20

岩に加わる力は、(赤の点の距離×矢印の力の大きさ)この計算式で表されます。

もし矢印の力の大きさが同じだとしたら、その力の差は赤の点の距離によって生まれます。

この時の赤の点の距離というものがモーメントアーム長というものになります。

まとめると

モーメントアーム長=力を加えた点(矢印のところ)と回転軸(岩に接している赤の点)までの距離

ということです。

 

では、これを筋肉に当てはめて考えてみましょう。

スクリーンショット 0004-01-06 20.19.44

上記の図のMM(肘から上腕二頭筋停止部までの距離)がモーメントアーム長になります。

この図では手に持ったダンベルに対抗する力を上腕二頭筋で出そうとしているのですが、それぞれの記号部分を先程の岩を用いた図と照らし合わせて解説してみます。

まずダンベルや上腕二頭筋によって動かされる点(=回転軸)は肘になります。岩の例でいくと岩に接していた赤の点ですね。

そしてこの肘(=回転軸)に加えられる力はダンベルと上腕二頭筋によって引き起こされます。

上腕二頭筋の方ではFM×MMが垂直上方向に働いています。
このFMは岩の例だと棒に加えた矢印のことです。MMは先程説明した通りモーメントアーム長のことで岩の例だと赤と赤の点の距離になります。

ダンベルの方ではFR×MRが垂直下方向に働いています。
FRはFMと、MRはMMと対の関係性になっています。

つまりこの図において、肘を90°に曲げた状態でキープするためには垂直上方向の力(FM×MM)と垂直下方向の力(FR×MR)を釣り合わせる必要があります。

MRはMMに対しておおよそ5倍くらい長いことから上腕二頭筋が必要とする力はダンベルの重さのおおよそ5倍くらいになるということになります。

さて、ここまででモーメントアーム長を説明してきましたが、このモーメントアーム長は筋肉ごとに変わります。そのことだけは忘れないで読み進めてください。

 

②生理学的断面積

これは簡潔に説明すると「筋肉の断面積」のことです。一つだけ理解しておいてほしいこととしては『生理学的断面積』『解剖学的断面積』が存在するということです。

スクリーンショット 0004-01-06 21.16.04

上の図は筋肉を模したもので、緑の線が生理学的断面積青の線が解剖学的断面積を表しています。

解剖学的断面積はシンプルに筋肉の一番太い部分のことで、生理学的断面積は筋繊維の方向に対して直交している部分を示しています。

つまり、生理学的断面積は図Cのように筋繊維の方向が一方向でない筋肉(羽状筋など)の方が大きくなります

 

③関節トルク

トルクとは「回転運動」のことを表しています。

基本的に骨は筋肉によって力が加わると関節を中心に円運動を行うようにできています。なので、関節トルクというものは『筋力』という言葉に置き換えることができます

 

④3つの関係性

ここまで『モーメントアーム長』『生理学的横断面積』『関節トルク』の3つをそれぞれ説明してきました。

そして、僕がこの章で一番伝えたかったことは、この3つの関係性です。

・筋が発揮する張力(関節を引く力)は生理学的断面積が大きいほど大きくなる
・筋の力の方向はモーメントアームの方向によって決定づけられる
・筋収縮によって発揮される関節トルク(=筋力)筋張力とモーメントアーム長の積になる

つまり、筋の機能と出力の大きさを考える場合、生理学的断面積とモーメントアーム長の情報を理解することが非常に重要になります。

画像6

上の図は下肢筋肉の生理学的断面積とモーメントアーム長を示したものです。

モーメントアーム長の部分の見方が少しややこしいのですが、
例えば一番上の腸腰筋を例に取ると、矢状面は+1.8とあります。

これは腸腰筋は矢状面では股関節屈曲方向に対してモーメントアームを有しており、モーメントアーム長は1.8cmあることを意味しています。

逆に矢状面でマイナスと書いてある大臀筋の場合は、伸展方向に対してモーメントアームを有しており、モーメントアーム長は4.6cmあるということになります。

この図を元にしていくと、生理学的断面積は『腸腰筋』『大臀筋』『中臀筋』がかなり大きく、次点で『大腿直筋』『大内転筋』『閉鎖筋群』『大腿二頭筋』の断面積が大きいことがお分かりいただけると思います。

生理学的断面積が大きいと発揮される筋力が高くなるので、シンプルに大きな力を出せるような状態にさせたいなら『上記の筋肉が働きやすい状態を作ること』『上記の筋肉を鍛えること』が重要であると考えられるわけです。

 

モーメントアーム長のところをみていきたいのですが、その前にサッカーではどの方向に出力することが多いのかを考えてみましょう。

(1) スプリント

スプリントでは地面を大きく蹴るために股関節伸展方向に対して力を出せるようにする必要があります。

(2)ストップ動作

正面のストップにおいては股関節の矢状面における関節動向を最小限にしたいので、屈曲および伸展方向に大きな力を出せるようにする必要があります。
横方向のストップにおいては膝が機能しなくなるため、例えば右足外側で止まりたいなら右足は外転方向左足は内転方向に大きな力を出せるようにするべきだと考えられます。

(3)切り返し動作やストップからの一歩目

ほとんどの局面において蹴り足は外転・外旋方向に力を出していきます。

 

もちろん全ての動きが当てはまるわけではありませんし、張力は生理学的断面積以外にも神経系の要因も重なるので人によっては発揮できる筋力に差があります。
ですが、今までの経験上、適切な動き方を行おうとするならば、上記の方向に出力することが多くなります。

 

ここまでの内容を踏まえると、「なぜサッカー選手はお尻をしっかり鍛えたほうがいいのか?」が説明できます。
「お尻を鍛えたほうがいい」という言葉の背景にはここまでの仮説が存在するわけです。

【この章のまとめ】
臀筋や腸腰筋は、生理学的断面積が大きいため発揮できる筋力が高く、サッカーでよく使う関節の動きに対しても大きなモーメントアーム長を有している。なので、サッカー選手は臀筋や腸腰筋を鍛えるべきだし、うまく使えるような動きを身につけるべきである

 

股関節がうまく使えた状態を言語化してみる

前章までで股関節の重要性をご理解いただけたと思います。

では、股関節はどのような状態で機能しやすくなるのでしょうか。

特にお尻を使える状態にすることが股関節運動における一番の課題であり、お尻を使える状態は拮抗筋である腸腰筋の出力を安定させてくれます

お尻と一般化してお伝えしていますが、お尻という言葉には中臀筋も含まれていることから、その拮抗筋である内転筋群の安定した出力増加も見込めます。

まずお尻が使える状態にするには、股関節を安定したポジションにすることが重要となります。

安定したポジションとは『股関節の求心位を保った状態』のことを指し、股関節の骨頭が寛骨臼におさまった状態のことです。

スクリーンショット 0004-01-08 15.58.12

股関節の求心位は立位(股関節屈曲0°)と屈曲位で支持機構が異なり、立位においては股関節骨頭に巻きついている靭帯が緊張するためほとんどの場合において股関節は安定します。

しかし、サッカーでは股関節屈曲0°の局面はプレーに関与しない局面でしか出現しません。

そのため屈曲位で求心位を保たなくてはいけないのですが、屈曲局面では靭帯が弛緩してしまうことから靭帯以外による安定が求められます

この靭帯以外による安定に必要なことが

・腸腰筋による求心位誘導
・深層外旋六筋による求心位誘導
・後方滑り運動による求心位安定

これらは独立的に発生するのでなく、互いが従属し合うことが求められます。

簡潔にいうと、腸腰筋も深層外旋六筋も使えた状態で後方滑り運動ができないとダメだよねということです。

これらは鶏が先か卵が先かの話になってくるのですが、動画内の指導では股関節後方滑り運動をできるようにすることを第一優先に語っております。

僕自身の考えですが、結局パフォーマンスは動きが変わったことによって向上するもので、筋単独でどうこうなる問題ではないということがあるからです。

なので、後方滑り運動の改善を先に行い、筋(腸腰筋や深層外旋六筋)が原因によって滑り運動が達成できなかった場合に、それらの筋にアプローチをかけ、再度、後方滑り運動の改善に努めるという流れでエクササイズを行うことを推奨します。

この後方滑り運動とは何かというと、股関節を後ろに滑りこませることです。

実際の方法については動画を参照していただき、ここでは『なぜ後方滑り運動が必要なのか?』について解説していきます。

画像8

上の図は股関節を真上から見たものです。Aの側が前方、Bの側が後方を示しています。

AとBで矢印の大きさが異なりますが、これは筋の量を示しています。要するにBの方が大きい。つまり、お尻の方が強く、結果として股関節は外旋方向に強く引き込まれやすいわけです。

先ほど、股関節の求心位が大事だと話しましたが、Bの方向に引かれるだけだと骨頭が前方へ向きすぎて、寛骨臼から外れる方向になってしまうことがイメージできるかと思います。
そのため、骨頭を後ろに保ち続ける状態にしないと求心位に保てないのです。
これが後方滑り運動が必要な理由です。

また、後方滑り運動と筋の出力を良い状態にすることを協立的に行えるべき理由は、腸腰筋と深層外旋六筋が働いただけだと求心位から外れてしまいますし、後方滑り運動だけだとA、Bそれぞれの矢印の方向への力が弱くなってしまい求心位を保てなくなるからです。

以上のことを達成した上で股関節を動かしていくことを『股関節がうまく使えた状態』と僕は呼んでいます。

【この章のまとめ】
股関節がうまく使える状態にすると臀筋などが働きやすい状態になる
そのための条件としては
・腸腰筋による求心位誘導
・深層外旋六筋による求心位誘導
・後方滑り運動による求心位安定
これらが従属的に発生することが求められる

 

支持基底面とトレーニングの順番に関して

前章までで、ガクトレ式の股関節トレーニングを行う意義をご理解いただけたと思います。

実はこのトレーニングを行うにあたって、トレーニングの順番というものが非常に大事になってきます。

この順番をしっかり考慮していかないと効果の薄いトレーニングになってしまうことがあります。
今回の考えはあらゆるトレーニングに応用できる思考法ですので、ぜひしっかりと押さえていただきたいです。

動画では、
四つ這い→膝立ち→立位→仰向け→四つ這い→立位
という順番でトレーニングを行っています。

基本的にムーブメントトレーニングなどの動きを変えるトレーニングやリハビリなどのメニューを組んでいく際には支持基底面の大きな順から行っていくようにしていきます。

支持基底面:体重を支えるために必要な床面積のこと
寝ている時の方が立っている時よりも支持基底面が広いという認識

動画においては四つ這い→膝立ち→立位で最初に行っていきましたが、そのクオリティをあげるべく立位の後に仰向けに寝てもらい腸腰筋のアクティベーションを行いました。

大事なことは
『うまくいかなくなったら支持基底面を一つ前のフェーズに戻すこと』です。

要するに、うまくいかなくなったら床に接する面積を増やしたエクササイズで再挑戦してねってことです。

この考えはあらゆるエクササイズ、トレーニングに通ずることなので、忘れずに覚えておいてください。

【この章のまとめ】
トレーニングはほとんどの場合において支持基底面が広い順に行う
トレーニングがうまくいかない場合は支持基底面を広くしたトレーニングに立ち返って行う

 

腸腰筋に関して知っておくべきエビデンス

動画の中で、新井選手に対して腸腰筋のアクティベーションを実施しました。

この章ではその腸腰筋に関する面白い話をいくつかしていきたいと思います。

画像9

腸腰筋とは大腰筋・小腰筋・腸骨筋の三つから構成されていますが、この筋肉は股関節を求心位に保つために非常な重要な筋でもあります。

そのため、この筋の機能が低下しやすい状態、もしくは低下している状態においては股関節を求心位に保つことが難しくなってしまいます。

また、脊柱と大腿骨を直接つなぐ唯一の筋であるため、この筋は俗にいう「体幹の安定」にも深く関与してきます。

 

では、腸腰筋の機能が低下する要因として考えられるところをまとめていきます。

まずは筋連結の要因から考察していきます。

ゴドリーブ・ストゥルイフ・デニスの筋肉連鎖
彼の筋肉連鎖モデルは他のモデルの先駆けと言われていますが、モデルの一つの『後前方向、前後方向の連鎖』では腸腰筋は呼吸筋群や射角筋群と繋がりを有しているとされています。

トーマス・W・メイヤーズの筋筋膜連鎖
日本でも有名な『アナトミートレイン』の著者である彼が提唱する連鎖の一つ、『ディープ・フロント・ライン』では腸腰筋は大内転筋、小内転筋、後脛骨筋、横隔膜、舌骨筋群などと繋がりを有しているとされています。

以上の連鎖以外にも腸腰筋との連結を謳っているものは存在しますが、総じて腸腰筋との繋がりで共通するものは呼吸筋群であるといえます。

実際に、腸腰筋と横隔膜腱中心は解剖学的に筋連結が存在すると言われていることから、ある程度信頼できるエビデンスであることが伺えます。

上記のことを踏まえて、腸腰筋の筋活動が落ちてしまう要因として考えられるものとしては、

・横隔膜を含む呼吸筋群の拘縮もしくは機能低下
・内転筋群およびその拮抗筋である股関節外転筋群の拘縮もしくは機能低下
・後脛骨筋およびその拮抗筋である腓骨筋群の拘縮もしくは機能低下
・舌骨アライメント不良およびそれに伴う可能性のある舌骨筋群の機能低下

このあたりが主として考えられます。

最初のセッション中の動画では腸腰筋の使い方を強制的に覚えさせるようなアクティベーション法を用いましたが、彼に対しては時間効率的にもこの手法がベストであると判断してこれのみを行いました。

実を言うと、股関節をうまく使えるようにするトレーニングを動画のような流れで行っても、できるようにならない方が一定数います

そういった方への改善方法は次の章で詳しく解説します。

【この章のまとめ】
腸腰筋は股関節を求心位に保つために重要な筋であり、主に呼吸を司どる筋との解剖学的な繋がりを有している
腸腰筋の機能改善に対してはその繋がりを元に介入箇所を定めると良い

 

股関節のトレーニングがうまくいかない選手の原因と改善トレーニング①

腸腰筋は股関節を求心位に保つ役割があるので、腸腰筋をアクティベーションさせることは非常に重要となってきます。

こちらの動画で併せて解説を行っておりますので、ぜひご覧ください。

 

①股関節屈曲角度と腸腰筋発揮トルクに関して

新井選手のトレーニングでは腸腰筋を中心にアクティベーションさせていったのですが、トレーニングの際に考慮していただきたいことが腸腰筋が働きやすい股関節の角度です。

腸腰筋以外にも股関節を屈曲させる筋はいくつかあり、それらは股関節の屈曲角度に応じて出力が変化します。

スクリーンショット 0004-01-11 13.44.54

上の図は股関節の屈曲角度に応じた筋の屈曲伸展方向に対する発揮トルクを示したものです。

図4をご覧いただくと、腸腰筋は股関節屈曲90°に向かって徐々に発揮トルクが上がっているのに対し、大腿直筋は約20°をピークに屈曲角度が増加するに伴って発揮トルクは低下していることが分かります。

このことから腸腰筋の活動性を高めようと思った際には股関節の屈曲角度を90°に近づけることが重要です。

そうすることで、大腿直筋などの出力が下がった状態でトレーニングを行えるため、腸腰筋単体にアプローチが可能になるわけです。

逆に考えると、股関節屈曲角度が増加していっても大腿直筋を使う感覚が強いままの選手は動きのエラーが起きやすくなります

動画内でお伝えしていますが、それぞれの筋は以下の箇所に触れることで機能しているかどうかを選手自身に判断させることができます。(※実際の付着部とは異なりますが、選手に分かりやすく伝えるという観点でこの表現を用います。)

腸腰筋:臍の横3cmくらいのところ
大腿直筋:腰前面の出っ張り(上前腸骨棘)の下あたり

チェック方法としては、座位にて上記の二点を選手に触ってもらいます。

この二点を把握した状態で足を持ち上げ股関節の屈曲角度を90°からさらに増加させるようにします。

その際に、腸腰筋と大腿直筋のどちらをより多く使っているか?
もしくは、腸腰筋のあたりを使って足を持ち上げている感覚があるか?

このあたりをヒアリングしていきます。

お尻を使う感覚がないという方のほとんどは腸腰筋のあたりを使う感覚が乏しい傾向があります。

 

②腸腰筋の発揮トルクが下がりうる拘縮について

腸腰筋が働きにくい直接的な原因として、腸腰筋の拘縮が考えられます。

・拘縮に伴う血流低下、それに付随した神経伝達物質(アセチルコリン)の放出阻害による筋出力低下
・拘縮によるアクチン・ミオシンのフィラメントバランスの崩壊

上記による出力低下が起きてしまうと、いくら他の原因を改善させても腸腰筋の出力を戻すことが難しくなってしまいます。

そのため、まずは腸腰筋を触診して拘縮がないかを確認し、拘縮があれば股関節屈曲位のまま30〜90秒の持続圧を加えるようにしてみてください。

 

③腹圧のチェック

腸腰筋を効率よくアクティベートできるかの指標として、腹圧を高めることができるかが重要になります。

腸腰筋は横隔膜と解剖学的な繋がりを有していると前述しましたが、横隔膜はコアの筋群の一つに分類されます

そのため、他のコアの筋活動を高めた状態にすることで、横隔膜も機能しやすくなります

コアとは一般的に腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群で構成されます。
その中でも、今回は腹横筋に対してエキセントリック刺激を加えることによるアクティベーションを実施していきます。

<アクティベーション方法>
①腹式呼吸を実施する。
息を吸った時にお腹を膨らませ、吐いた時にお腹を凹ませるというキューイングを行いましょう。

②腹圧呼吸を実施する
次に腹圧呼吸にシフトさせていきます。腹圧呼吸では腹式呼吸と同様に息を吸ってもらい、吐いた時にお腹を膨らませ続けるように指示します。

その状態をキープさせた状態で臍の下あたりにケトルベルやダンベルを置き、それを10秒程度弾き返すようにしてもらいます。

膨らます方向に刺激を加えることはエキセントリック刺激となり、一時的に筋出力は向上します。その状態にさせることで、腸腰筋アクティベーションエクササイズを行いやすくできます。

 

④臀筋群のアクティベーション

腹圧を高めるエクササイズと同時に行っていただきたいのが臀筋のアクティベーションです。

基本的に、腸腰筋をうまく使えない方のほとんどが、臀筋もうまく使えていないことが多いです

 

⑤横隔膜の拘縮改善

ここまでは、アクティベーションを主としたエクササイズでしたが、横隔膜が拘縮しても腸腰筋の出力は低下してしまいます

横隔膜の拘縮を解除していく際には、

徒手で介入する方法
肋骨周辺の筋に対してストレッチをかけ、肋骨の拡張をはかる方法

これらを用いていきます。

特にストレッチで介入をする場合は、同時に体側の筋全体を伸ばしていくために鉛直方向に身体全体を伸ばしてから実施するようにしてみてください。

以上の流れを行った後に、再度①のように股関節屈曲位にて腸腰筋のアクティベーションを行っていきます。

【この章のまとめ】
腸腰筋のアクティベーションを行う際には以下の要点を押さえる
股関節屈曲角度を90°以上にすること
腸腰筋の拘縮を解除すること
③コア筋群によって腹圧を高めた状態であること
臀筋群の機能性が高まっていること
横隔膜の拘縮を解除すること

 

股関節のトレーニングがうまくいかない選手の原因と改善トレーニング②

続いては、股関節トレーニングを行う際によく起こる問題の1つ『股関節前方インピンジメント』の改善方法を解説していきます。

 

股関節前方インピンジメント(FAI:femoroacetabular impingement)
骨盤と大腿骨が衝突することによって生ずる病態で、大腿骨頭の求心位が保てずに発生することが多い

 

股関節前方インピンジメントでは、股関節の前方に引っかかりや違和感を示します。
この違和感を改善していくためには、前章で解説した腸腰筋の改善も重要ですが、それのみで改善する選手は経験上5割程度です。

この章では股関節内外転筋のバランス改善方法を解説していくのですが、大きく分けると以下の通りになります。

  1. 内転筋群が関与する筋筋膜連鎖のルートの拘縮改善
  2. 外転筋群が関与する筋筋膜連鎖のルートの拘縮改善
  3. 内転筋群の筋出力改善
  4. 外転筋群の筋出力改善

 

①内転筋群が関与する筋筋膜連鎖のルートの拘縮改善

ここでは、アナトミートレインにおけるディープフロントラインの繋がりを元に改善を行っていきます。

画像13

『ディープ・フロント・ライン』では腸腰筋は大内転筋、小内転筋、後脛骨筋、横隔膜、舌骨筋群などと繋がりを有しているとされます。

この時アプローチしたいのが、内転筋群と後脛骨筋への直接的な介入です。

介入の際に、ただ闇雲にアプローチを行うのでなく、違和感(股関節のつまり)を誘発する動作を行い違和感を確認した後に、『脛骨後内側部と筋との境目の部分』や『内転筋群の起始部』を押し込みながら再度行い、股関節運動が改善された場合にさらにアプローチをかけていくと効率よく改善ができます。

このアプローチの際には二つの手法を用います。

・対象筋を弛緩位にさせた状態で拘縮がある部分に対して持続圧を30~90秒加える方法
・対象筋の拘縮がある部分に対して持続圧を加えながら弛緩とストレッチを交互にかける方法

これらに手法に関しては優劣があるというより、選手によって改善しやすいものを選択するというイメージで行ってみてください。

ちなみに、この手法で改善するパターンが①〜④の中で最も多い印象です。

 

②外転筋群が関与する筋筋膜連鎖のルートの拘縮改善

ここではアナトミートレインにおけるラテラルラインの繋がりを元に改善を試みます。

画像14

『ラテラルライン』は長腓骨筋→短腓骨筋→腸脛靭帯→中殿筋・大殿筋・大腿筋膜張筋→外腹斜筋→外・内肋間筋→頭板状筋・胸鎖乳突筋のような繋がりを有しています。

ここでも①と同様の流れをとり、アプローチする必要性があるかをチェックしてから実施していきます。

アプローチの優先順位としては高いものから

  • 臀筋群
  • 腓骨筋群
  • 肋間筋群

このようになります。

動画内では腓骨筋群へのアプローチのみを実施しています。

追記:臀筋の介入はこちらの動画を参照ください。

 

③内転筋群の筋出力改善/④外転筋群の筋出力改善

ここでは股関節内外転筋の出力を改善させることで股関節前方インピンジメントの改善を試みていきます。

・シンプルに徒手筋力検査(MMT)と似たような側臥位で行う方法
・チューブを用いて側臥位もしくは立位で行う方法

ここで重要となることが二点あります。

  • 股関節の屈曲伸展のポジション
  • エキセントリックの意識

股関節の屈曲伸展のポジション

まず股関節の屈曲伸展のポジションですが、外転筋群の中で中臀筋を中心にアプローチをしたいときは股関節をやや伸展位で、大腿筋膜張筋を中心にアプローチしたいときは股関節をやや屈曲位で外転トレーニングを行います。

そのため、今回の場合では中臀筋にアプローチをしたいので伸展位で行うようにします。

一方、内転筋群の場合は基本的に屈曲伸展中間位で動作を行ってもらいます。

しかし、骨盤前傾を誘導したい場合のみ、股関節内旋位でトレーニングを実施してください。内転内旋では恥骨筋の働きが強まり、骨盤前傾を誘導しやすくなります。

腸腰筋や臀筋群は骨盤前傾時に筋が至適長となり出力は高まりやすくなるので、ケースによってはそれも選択肢に入ると考えています。

 

エキセントリックの意識

続いてエキセントリックの意識ですが、筋肉には三種類の収縮様式が存在します。

  • アイソメトリック収縮
  • コンセントリック収縮
  • エキセントリック収縮

この中で筋出力の向上を求める際にはエキセントリック収縮を用いて行なうことが重要となります。

というのも、神経系の適応(EMG活動)と筋肥大効果はエキセントリックトレーニングにおいて有意に大きい(Hortobagyi et al,1996)と言われているからです。

教科書的にもエキセントリック収縮によって発生される筋力はアイソメトリックおよびコンセントリック収縮よりも大きいと言われていることからも、なるべく多くの運動単位を動員させようと思った時にはエキセントリック収縮を取り入れるべきだと考えられます。

ウォーミングアップだけでなく、トレーニングプログラムを組み立てる際にもこの考え方が応用できます。

トレーニング動作にエキセントリック要素を含めることで、コンセントリックのみのトレーニングと比べて、有意に大きなスクワット筋力の増加率を得ることができた(Hakkinen & Komi,1981)との報告があります。
また、ハーフスクワットや垂直跳びの向上率も有意に大きくなった(Colliander & Tesch,1990)との報告や、獲得された筋力と筋肥大効果の保存期間も長い(Hather et al,1991)との報告もあることから、トレーニングプログラムを組む際にもエキセントリック収縮を取り入れることは非常に重要であると考えられます。

逆説的に考えると、あまり動員したくない筋はコンセントリック収縮で、動員したい筋はエキセントリック収縮でウォーミングアップとしてのアクティベーションを行なうようにするとリハビリなどでも効率よくアライメント改善や動作改善をすることができるようになります。

【この章のまとめ】
股関節トレーニングを阻害する『股関節前方インピンジメント(FAI)』の改善には股関節内外転筋群の拘縮改善(筋筋膜連鎖を用いる)とそれぞれの出力を改善させることが重要となる

 

股関節のトレーニングがうまくいかない選手の原因と改善トレーニング③

最後に臀筋の硬さに起因した股関節動作不全に対する改善方法を解説します。

このケースは四つ這いで股関節を曲げる際に背骨が曲がってしまう場合や、そもそも四つ這いで股関節を曲げることができない場合が適応になります。

ここで改善すべき筋は、

大臀筋などの表層にある筋
深層外旋六筋など比較的深層にある筋

になります。

基本的に大臀筋へのアプローチ→深層外旋六筋へのアプローチといった順で行うようにしてみてください。

今回の新井選手のセッションではストレッチを行っていきましたが、ストレッチを行う際に、その効果を最大限高めていくために押さえていただきたい考え方があります。

それは、『基準点と動作点の意識』です。

この説明を行う前に認識していただきたいことは、ストレッチでは防御反応が出ない範囲で対象の筋を最大限ストレッチさせることが効果を出すために重要であるということです。

筋繊維はサルコメア(筋節)が繋がってできたもので、ゴムというより鎖がいくつも繋がっているイメージに近い構造です。
※動画中では便宜上チューブを用いて説明しています。

そして、サルコメアは全てが均等に配置されているのでなく、場所によって幅が短かったり長かったりします。

例えば、ハムストリングのストレッチを行ったときに伸びやすい部分と伸びにくい部分があると思いますが、これはサルコメアの幅が関係しています。

そのため、最大限の範囲でストレッチ感を出したいのですが、防御反応が出ない程度で行うことが重要です。

筋には筋紡錘と呼ばれる筋肉の伸張性を察知する組織が存在しており、強すぎる刺激が加わると筋は収縮方向に働いてしまいます。なので、この状態が起こるとストレッチの効果は激減してしまいます。

そのため、痛みで防御反応が出ない範囲でストレッチを行うことがポイントです。

 

話が脱線してしまったので本題に戻すと、強いストレッチ感を引き出すために大事になることが先述した『基準点と動作点の意識』です。動画中でも言及しているように、チューブを伸ばす際に、動かさない側と動かす側を分けるというものです。

スクリーンショット 0004-01-12 21.11.17

例えばAのように両側を伸ばすのでなく、Bのように片側を止めてもう片側を引っ張るイメージです。

動画中ではハムストリングと臀筋のストレッチを例に挙げていますが、ハムストリングのストレッチでは踵と坐骨がそれぞれ基準点と動作点になり、踵を地面にロックさせながら坐骨を踵となるべく離す意識で行ってもらっています。

一方で、臀筋のストレッチの場合は坐骨と後頭部をそれぞれ基準点と動作点とし、坐骨を地面にロックさせながら後頭部を坐骨から離すような意識で行ってもらっています。

実際に試していただくと、ただストレッチするときと比べてストレッチ感が増すのが分かると思います。

この考え方はあらゆるストレッチにおいて重要なので、応用できるとストレッチ指導のクオリティは飛躍的に向上します。

【この章のまとめ】
股関節のトレーニングがうまくいかない原因の一つに臀筋群の硬さがある。
これらの改善も含め、ストレッチを行う際には痛みで防御反応が出ない範囲で最大限にストレッチさせることが求められ、そのためには対象筋に対して『基準点と動作点の意識』を設けることが重要となる。

 

コアに関して知っておくべきエビデンス

ここまで、あらゆる動きの基礎となる股関節の使い方を解説していきました。

この章では、次章のアジリティ要素のトレーニング内容に入る前の補足として、コアの筋と称される『腹横筋』『多裂筋』について知っていただきたいと思います。

というのも、これらの筋は臨床上非常に重要な筋であるためです。

 

①腹横筋

腹横筋は四肢の動きに先行して収縮する特性(Hodges 1997)を持ち、運動を安定させるためのトリガーとしても考えられています。

この先行収縮は
上肢の動きの0.03秒前
下肢の動きの0.11秒前

に発生すると言われています。

基本は先行して働く筋肉ですが、腰痛患者の場合、四肢の動きの0.45秒後に活動し始めると言われており、もはや運動が完了した後に働いています。

このことから、腹横筋の出力順序を整えることは特に怪我予防の観点からも重要になります。

また、腹横筋は胸背筋膜という背中にある筋膜を介して様々な筋と連結を持ちます。

画像12

※図では「胸腰筋膜」とありますが、「胸背筋膜」と同義です。

腹横筋はこの胸背筋膜を介して

  • 広背筋
  • 大臀筋
  • 腰方形筋
  • 僧帽筋下部繊維

これらと連結しています。また、腹横筋は多裂筋とも直接的な筋連結を有しています。

 

②多裂筋

多裂筋もまた、様々な連結を有していて、後仙腸靱帯・仙結節靱帯を介して、

  • 大腿二頭筋(長頭)ー長腓骨筋
  • 半腱様筋
  • 半膜様筋

と連結があります。

このことから、腹横筋や多裂筋を中心に全身に連鎖していくことがお分かりになるかと思います。

そのため、この2つの筋が機能不全に陥ると、遠位の筋が単独で働こうとして、その結果局所が破綻してしまうのです。

僕が以前診た選手に、腰を蹴られて打撲したことで多裂筋が機能不全に陥り、臀筋が働きにくくなり、結果としてハムストリングスが単独で働こうとしてしまい肉離れを起こすというものがありました。

その選手には機能不全に陥った多裂筋と、腹横筋に対してアプローチを行っていったのですが、筋連結とコアの筋に対する理解がないと、ハムストリングの筋力面しかアプローチせず、再発を繰り返させてしまう可能性もあります。

上記の例のように、臀筋とハムストリングは共に股関節伸展筋ですが、ハムストリングを肉離れしやすい方は臀筋よりも先にハムストリングの収縮が発生してしまいます。

 

チェックの仕方としては、腹臥位で片側の股関節伸展をしたときに、大臀筋とハムストリングの収縮順序の差を触診してみてください。ハムストリングの肉離れが癖になっている方はハムストリングが大臀筋よりも先に収縮する傾向があります。

この筋肉の収縮順序のことをファイアリングシークエンス(筋の発火順序)と呼び、コアの筋群の機能不全でも収縮順序の崩れが生じやすくなります。

ウォーミングアップなどに、この順序の崩れを正すことを取り入れることで肉離れの予防にも繋がるので、コアの筋群や大臀筋のウォーミングアップにぜひ行ってみてください。

【この章のまとめ】

  • 腹横筋は四肢の動きに先行して収縮する
  • 同じコアである多裂筋と共に全身へと筋連結を有しているので、コアの機能不全は遠位の怪我に繋がりやすい
  • ファイアリングシークエンスの崩れはサッカーの怪我で発生しやすい肉離れの原因になりうる

 

SAQ要素改善のための基礎的なムーブメントトレーニング

本章では、スピード・アジリティ要素の一つである切り返し動作の改善を行うまでの流れを解説していきます。

解説に入る前に、一般的にこれから説明するトレーニングはSAQトレーニングと呼ばれます。

SAQは、
・Speed スピード(速さ):重心移動の速さ
・Agility アジリティ(敏捷性):運動時に身体をコントロールする能力
・Quickness クイックネス(俊敏性):刺激に反応し速く動きだす能力

このように分類されます。

一般レベルでこれらの違いを理解している方はごく少数ですし、ぶっちゃけ選手には『アジリティ』という認知性の高いワードで解説してもいいと思っています。

基本的に切り返し動作は以下の二つの要素を改善させることで向上を図ります。

①地面に大きな力を加えること
②力を適切な方向に加えること

これらをそれぞれ解説していきます。

 

①地面に大きな力を加えること

この要素では、動きの質的な要素筋パワーの向上が必要となります。筋パワーの面に関しては、ウエイトトレーニングについて解説したnoteをご覧いただければと思います。

地面に大きな力を加える際には、『股関節をうまく使えた状態』であることが重要です。

要するに、四つ這いからはじめて、片足スクワットにおいても股関節をうまく使えた状態にさせておかないと動きの質は向上してきません。そのため、これから解説するトレーニングを実施する場合は、股関節をうまく使えた状態ができてから行ってください。

ゆっくりと片足スクワットをできるようになったら、その場で一気にボトム(下がりきったポジション)までしゃがみます。

この脱力の使い方というのはSAQのQ:クイックネスのところで必要となってくるので、同時に習得しておくと後々役立ちます。

というのも、切り返し能力を向上させる一つの要素として、リアクションスピードを高めることがあります。

リアクションは目から入った情報を視覚野で処理して、運動野から筋を動かす指令を出すまでの時間と、指令が出てから地面に最大限の力を加えられるポジションに移行できるまでの時間の合計で表されます。

後者の「指令が出てから地面に最大限の力を加えられるポジションに移行できるまでの時間」を高めるのに「脱力」が重要になります。

この脱力という動かし方は、古武術の考え方の一つである『膝抜き』を参考にしたものです。Youtubeで古武術を体現されている方が膝抜きなどについて色々と解説されているので、余裕がある方は見てみてください。

この膝抜きという使い方を利用しながら、筋の緊張と弛緩を正確に行えるようにします。

その場でできるようになったら、次は一歩踏み込みながら行えるようにするのですが、一番選手の成長を阻害する要因として、できていないのに次のステップに進んでしまうことが挙げられます。

学んだものを選手に教える際に、ついつい教えすぎてしまうことがありますが、選手ができていないのに次のステップに進んでいも、成長にはあまり繋がりません。

こういった、自己満足な指導は避けていただき、選手ができていないと感じたら支持基底面や難易度を下げたエクササイズに変更してください

また、稀に起こるケースとして、最初はできていたのに回数を重ねたら違う感覚になってできなくなることもあります。そのため、一つ一つの動きを丁寧に実施するように指導することが大切です。

話が脱線したので本題に戻します。
その場で脱力を伴った片足スクワットができるようになったら、次は一歩前に踏み出しながら片足スクワットでボトムのポジションを作っていきます。(このときの「ボトム」とは、お尻に刺激が入り続けるギリギリの関節角度のことを指します。そのため、ボトムの深さは人それぞれ異なります。)

一歩前に踏み出す際に大切にしていただきたいのが、『力を逃さないこと』です。

踏み込んだ際に膝の角度が一発でピタッと止まるイメージです。

踏み込んだ際に膝がブレるということは、ブレた方向に力が逃げているということです。

力が逃げてしまうと、次に紹介する「適切な方向に力を加える」という目標を達成できなくなります。

 

上記に加えて、「音の意識」も持っていただきたいです。

音というのはエネルギーであり、地面に強い力を加えられるほど音は大きくなります。

2020シーズン、無観客だった際のプレミアリーグなどのプレー中の音を聞くと、ユースの試合よりあらゆる音が大きく聞こえることがわかるかと思います。

そのため、片足で踏み込む際にもなるべく大きな音を鳴らせるような身体の使い方が望ましいと考えています。

ただし、自ら音を出しにいくように地面を蹴る動きをしてしまうと身体の使い方は崩れていってしまうので注意が必要です。
力を逃さなかった結果、音としてエネルギーが分散された状態が理想です。

 

②力を適切な方向に加えること

重心を移動させるためには大きな力を『適切な方向』に加えることが求められます。

基本的に切り返し動作やスプリントなどでは水平方向に力を加えることが求められます。(局面によって多少方向に変動があります)

この水平方向の力を主観的に把握するには、壁に手をつかせて、壁をどのくらい強く押せるかを基準にすると方向と身体の使い方が適切かを選手自身が理解することができます。

トレーニングの流れは動画を参照していただき、ここではよく発生するエラーについて解説していきます。

 

股関節の滑り運動が発生していない

これは、股関節屈曲伸展中間位のまま動作を行っている状態を指します。
中間位では靭帯による股関節の安定は保てますが、筋による安定機構が機能しません。そのため大きな力が発揮しにくくなってしまいます。しっかりと股関節をやや屈曲位にして、股関節を後ろに滑り込ませることが重要です。

 

力が重心に届くまでに逃げてしまっている

力の逃げやすいポイントは全身でいくつかあります。

  • 母指球など前足部に体重を乗せてしまっている→脛骨の真下に体重を乗せるようにする
  • 膝が爪先に対して内側に入ってしまっている
  • 脊柱が反りすぎてしまっている
  • 体幹が腰の部分で折れ曲がってしまっている

上記のことが発生していないか、注意深く観察することが重要です。

 

回旋方向に無駄に力が加わってしまっている

前額面上に対して力を加えていくことを求めているのに、骨盤が水平面上で回旋してしまうことがあるので注意が必要です。

 

このようなエラーパターンを改善させていきながら、まずはスローで動作パターンを学習させていきます。

非常に抽象的な言葉ですが、選手には「フォトジェニック(写真写りが良い様)であれ」と伝えています。

 

例えば、壁を使ったトレーニングを行う際にもトッププレーヤーの切り返し動作の瞬間のような雰囲気、ポジションであるとその後のトレーニングがうまくいきやすくなります

スローでのトレーニングができたら、続いて一歩外側に踏み出してもエラーパターンが出ずにできるようにしてみてください。

これらを実際のアジリティトレーニングで発揮できるように、一般的なフィールドトレーニングに落とし込んでいきます。

【この章のまとめ】
切り返し能力の向上にはこれら二つの要素が重要となる
①地面に大きな力を加えること:股関節をうまく使えていること、膝抜きができていること、膝などで力が逃げていないこと、意図的にならず大きな音が出ていることを意識させる
②力を適切な方向に加えること:壁を用いてトレーニングしていくが、その際に股関節の滑り運動を発生させること、力を重心に届かせるまでに逃さないことを意識させる

 

まとめ

以上がガクトレで用いる股関節のトレーニング〜アジリティ動作の基礎の部分です。

今回ご紹介した動作を適切に行えるようにすることは、フィジカルコンタクトスプリント動作の改善膝や腰の障害予防やリハビリに対しても重要になってきます。

そのため、僕自身もこれらのトレーニングはほとんどの選手に対して行ってもらいます。そのくらい大切にしているトレーニングです。

ぜひ今回の内容を正確に、かつ指導側のエゴにならないように、皆さんが大切に想っている選手に伝えていってください。

以下のnoteはこの記事と併せて読んでいただくことで理解がさらに深まります。
ぜひ機会があればお読みください。

 

Copyright© ガクトレ , 2022 All Rights Reserved.