【ガクトレ式】サッカー選手のためのウエイトトレーニング理論

【ガクトレ式】

サッカー選手のための
ウエイトトレーニング理論


今回の記事では『サッカー選手のためのウエイトトレーニング』について詳しく解説しております。

実際に僕のところに訪れる選手からよく聞くのが

・大学に入って体重を増やそうと思ってウエイトトレーニングを行ったらキレがなくなってしまった
・ウエイトトレーニングをやりたいと思っているが周りでキレがなくなった選手がいてやろうか迷っている
・シーズン中にどのくらいトレーニングしていいのか分からない

このあたりです。

正直なところ、適切にウエイトトレーニングを取り入れることができればキレがなくなるといった感触を与えることはほぼありません。

なんならキレが逆に上がったと言われることの方が多いです。

また、シーズン中でも最低週3回はトレーニングを実施してもらいます。

note後半ではシーズン中において疲労を溜めずにパフォーマンスを向上させ続けさせるかというところについても言及しております。

海外サッカーなどをみても、近年はウエイトトレーニングなどをチームが積極的に取り入れており、フィジカル能力の重要性はかなり謳われております。

一方で、日本においてはボディビル的な筋肉をとにかく増やすといった方法がSNSなどでもかなり流れてきているため、選手もそちらの方へと流されていってしまいがちです。

ぜひ今回の内容を元に、選手に適切なウエイトトレーニングを指導して、パフォーマンスを向上させていっていただけたらと思っております。

解説動画

こちらの解説動画は最初に見ていただいてもいいですし、読み終えてから最後に伝え方の確認も含め見ていただいてもいいです。

 

 

ウエイトトレーニングの順番

僕が選手にウエイトトレーニングを指導する際の順番を解説していきます。

目的の設定

フォーム指導

1RM測定

筋肥大 or 最大筋力 or 筋パワー

原則としてこのような順番で行っていきパフォーマンスの向上を図ります。

一番最後の『筋肥大』『最大筋力』『筋パワー』のところに関しては、人によって伸びしろとなるところが異なるのでこのような表記にさせてもらいました。

まずは目的の設定方法に関してですが、基本的にウエイトトレーニングにおいては

・体重を増やすか否か
・ピークパフォーマンスにもっていくまでの期間
・どのようなシーンにおいてのパワーを高めたいのか

このあたりのヒアリングを行って決めていきます。

体重を増やすか否かのところで筋肥大の期間をどれくらい入れるのかを決定します。

また、ウエイトトレーニングではわざとパフォーマンスが落ちる時期というものを特に『筋肥大』を目的とさせる場合においてはつくります。

筋肉量は最大筋力にある程度比例しますし、フィジカルコンタクトなどにおいては体重が多い選手の方が有利になるため、肥大期を用意することはほとんどの選手に対して必要不可欠と言えます。

そのため、パフォーマンスが落ちる期間を逆算しつつ、ピークパフォーマンスにもっていくまでの期間を設定していきます。
これらについては『ピリオダイゼーション』の章で深く解説を行っていきます。

そして最後の、どのようなシーンにおいてのパワーを高めていきたいのか、ここをヒアリングすることでトレーニング種目がおおよそ決定されます。

これらをざっくりと決定していきますが、あくまで目安となるところだけを推測するだけにとどめます。

というのも、詳細の決定は1RMを測定しないと見えてこないからです。

1RMを測る意義と選手への説明の流れ

1RMとは、1 repetition maximumの略で、日本語訳にすると『最大挙上重量』という意味になります。

これは目的に対して正しいフォームで1回だけ挙上できる重量と定義付けさせることができるのですが、これはウエイトトレーニングを取り入れるならどの選手もほぼ必ずといっていいほど測らなくてはいけません

選手にその必要性を伝えるために、以下の『筋の力ー速度関係』と呼ばれる図を用いると分かりやすく測定意義を説明することが可能となります。

画像1

こちらの図は筋の力と速度の関係性を示したものです。

ここで理解しておきたいことが、サッカーなどにおいては何%くらいのパワーが重要となるかというところです。

最大筋力が発揮されるまでにかかる時間はおおよそ0.6~0.8秒程度と言われています。

それに対して、例えばスプリントでは選手によって差はありますが接地時間はおおよそ0.08~0.12秒であり、ジャンプなどのコンセントリック局面でも地面に力を伝えているのは0.2~0.3秒程度になります。

一般的に、筋パワーは最大筋力の30~60%程度と定義されておりピークパワーは図に記載のあるように35%程度と言われています。

このことからも、実際にサッカー選手が高めていかなくてはいけないパワーとは最大筋力に対して60%以下の範囲がほとんどであることがわかります。

この30%や60%といった数値を算出する際に大事なことが1RM測定なのです。

要は、基準がないのに60%とか言われても分からないよね。だからまずは100%の値を知ろうね。という説明になるのです。

1RM測定方法について

1RMを測定する際には以下の3つの方法を用いると便利です。

①直接測定
②推定測定(PVT)
③推定測定(VBT)

ちなみに③は僕が最も愛用している方法なのですが、特殊なデバイスが必要なので今回は説明を割愛します。

①直接測定

これはシンプルに1回だけ持ち上がる重さを見つけるという方法です。

●メリット
・正しく測定することができたら最も信頼性が高い

●デメリット
・高重量を扱うので危険が伴う
・恐怖心から重りを下げきれないことがある
・1人だと非常に計りづらい

このような感じなので、トレーニング熟練者かつ補助を用意できる場合にのみ実施するようにしています。

②推定測定(PVT)

これは潰れるまで(Failure)行えた回数と重量と元に推定する方法になります。

推定のさせ方は以下の表を参考にしつつ計算を行っていきます。

スクリーンショット 0004-01-30 22.54.06

例えば、80kgで8回まで挙げられた(9回目は挙げられなかった)とすると、80kg÷80で推定の1RMは100kgとなります。

要するに、挙上した重量から潰れるまでの回数に対応したパーセンテージのところを割ってあげると推定の1RMが算出できるのです。

これらのメリット・デメリットとしては

●メリット
・直接測定より安全に測定できる
・トレーニング初級者でも測りやすい

●デメリット
・不正確になってしまう場合がある

デメリットにある『不正確になってしまう場合』とは、選手の遅筋と速筋のバランスなどによるものが多いです。

基本的に1RMに対して90%の負荷では4回の挙上がおおよその限界にあたるのですが、長距離選手など遅筋が多いような選手だと4回以上余裕で挙げてしまうケースを見ることができます。

実際にこの推定測定で行ってから実際に1RMを持たせてみると楽に行えてしまったり、逆に全く持ち上がらなかったりといったことがあったりするので注意が必要です。

このあたりに関しては色んな選手をみていく中で適切な方法を選択できるようになると思っています。

パワーと力積について

この章では最もサッカーのパフォーマンスに直結しうる『パワー』の概念について解説していきます。

まず定義の説明ですが、サッカーにおけるパワーとは

自分の身体(またはボール)を短時間で最大限に加速させる能力

と定めることができます。

ではパワーが高い状態とはどのような状態を示しているのでしょうか。

パワーを解説するにあたり、こちらのグラフをご覧ください。

スクリーンショット 0004-01-30 19.12.16

これはCMJ(カウンタームーブメントジャンプ)の床反力を数値化させたものです。

横軸が経過時間を示しており、縦軸は力を示しています。

横に矢印で引いてあるEccentric phaseはしゃがんでいるときを示しており、Concentric phaseは立ち上がり動作をしているときを示しています。

Eccentric phaseの前の力が0でないのは体重がかかっているからです。

ここで何をみていただきたいのかというと、下の図の斜線部です。

スクリーンショット 0004-01-30 19.16.26

ジャンプ高は緑の射線部から赤の斜線部を差し引いた『パワー』に依存します。

スクリーンショット 0004-01-30 19.20.19

実際にはEccentric phaseの緑と赤の斜線部の面積は一致するので(Eccentric phaseでは地面に足がついているため)、厳密にいうとConcentric phaseの緑と赤の差分がジャンプ高に比例関係となります。

この差分が高い状態をパワーが高い状態と呼ぶのです。

この斜線部のことを力積と呼び、これを高めることがパワー向上に繋がるのです。

力積とは『質量(m)に速度の時間変化を掛けたものは、そのとき働く力に等しい』というニュートンの運動法則の式に基づき、

Ft=mv2 -mv1

この数式で表すことができます。

グラフにするとこのような感じです。

スクリーンショット 0004-01-30 19.42.43

ある地点の物体の質量(m)×速度(v1)から、遡ったある地点の物体(m)×速度(v2)を差し引いたものになります。

つまり、

どれだけ大きな力を一定の時間の間に加えられましたか?

というのが力積になるのです。

一般的なパワーの概念の誤り

次の説明に移る前に、パワーについてよくある認識の誤りについて触れていきます。

一般的にパワーとは

パワー=力×速度

このような計算式で表されたりします。

そのため普通に考えて、パワーを高めようと思ったら

力を高めるor速度を高める

このどちらか、もしくは両方を採用したりするはずです。

パワーが単純な掛け算で表されるとするならば掛け合わされるどちらか、もしくは両方の数値が高まれば合計となる数値は高まりますもんね。

ですが、この考えには大きな落とし穴が存在します。

スクリーンショット 0004-01-30 19.30.21

仮に先ほどの計算式を元に、力の向上からパワーを高めようと思いトレーニングを積むと上の薄い緑の線のような力発揮のグラフになります。

何を意味するのかというと、力をただ高めるだけだとConcentric phaseの時間が短すぎて力積の合計値に変化が見られないのです。

要するに、力が向上すると地面に力を加えられる時間が短くなるため、素早く力を立ち上げる能力が求められることになるのです。

速度の向上からパワーを高めようとした場合にも似たような現象が生まれます。

前章で運動が終了するまでの時間とピークパワーが発現するまでの時間について解説していきましたが、速度を高めるということは筋収縮の速度を高めることなので、これも同様に運動が終了するまでの時間が早まってしまい、結果として力積を積めなくなってしまいます

このことから、

速度が上がっても力発揮をする能力

というものがパワーの向上に対しては重要となってくるのです。

パワー向上に重要なRFDとSSC

パワー向上のためには力積を積み上げることが重要であり、そのために以下の二つの能力が必要であると前章で説明しました。

・素早く力を立ち上げる能力
・速度が上がっても力発揮をする能力

この章ではこれらを向上させるための二つの要因について解説していきます。

①RFD

RFDとは『Rate of Force Development』の頭文字で、日本語に直すと『力の立ち上がり率』というものになります。

スクリーンショット 0004-01-30 20.01.56

RFDとは、

どれだけ早く最大筋力付近まで力を出すことができるかというもの

になります。

上の図のA、Bを比較した場合、Aの方が発揮筋力は大きいのですが、運動が終了する0.2秒付近での発揮筋力は同じになっています。

この場合においてはBのRFDがAよりも高いと表現することができます。

スクワットの1RMが全然持ち上がらないのに足が速いような選手はBのようなタイプに分類され、逆に1RMが高いのに足があまり速くない選手はAのようなタイプに分類されます。(体重が同一かつ走動作による影響が薄い2者を比較した場合による)

要するに、伸びしろとなる部分がAとBで異なるということが言えるわけです。

このRFD向上のために重要なことは、

コンセントリック局面での速度を限りなく高めるような意識を持つこと

になります。

例えばスクワットにおいてはしゃがみきったボトムのポジションから立ち上がったトップのポジションまでをなるべく素早くさせる意識を持たせることです。

②SSC

SSCとは『Stretch-Shortening Cycle』の頭文字で、日本語に直すと『伸張ー短縮サイクル』となります。

SSCは二つの反射が複合的に働くことで引き起こされます。

一つ目は『伸張反射』です。

これは筋繊維と平行に配置されている感覚器官である筋紡錘が、筋が外力によって引き伸ばされたと同時に伸張され、そこから発射された信号が求心性神経を伝わって脊髄にある同じ筋の運動ニューロンを興奮させ、その筋に反射的な収縮を起こさせるという反射です。

分かりやすくいうと、筋が引き伸ばされた時に、元々の長さに維持しようとする反射ということができます。

もう一つの反射は『ゴルジ腱反射』です。

これは『ゴルジ腱器官』と呼ばれる感覚器官が筋が引き伸ばされながら張力が増すエキセントリック活動時に働くことで、そこからの求心性の信号が脊髄にある抑制性のニューロンに伝達されて筋活動を弱めるという反射を引き起こすというメカニズムを指します。

簡単にいうと、強いエキセントリック活動をする筋の活動を弱めることにより、筋腱の損傷を防ぐ、いわば防御反射のようなものです。

SSCにおいては興奮性の反射である『伸張反射』と、抑制性の反射である『ゴルジ腱反射』が複合的に作用します。

これらのうち、生体に元々備わっている防御反射であるゴルジ腱反射を意図的に抑制することがパワー向上においては重要となります。

ではどのような意識づけを行うとこのSSCを効率よく行えるようになるのかというと、反動をトレーニング中に利用させることが重要となります。
また、今回の記事では取り扱っていませんが、プライオメトリクストレーニングでもこのSSC要素を鍛えることが可能となります。

この反動を用いる際にはフォームが崩れやすくなってしまうため注意が必要となりますが、反動を用いた上でRFDも意識させることができるとパワーのトレーニングとしては非常に良いものになりうるでしょう。

パワートレーニングの適切なレップ数

ウエイトトレーニングを行う際に、どこまで追い込ませるのかというところも重要な要素となります。

ここでは二つの研究(Parejaら 2016)(Daviesら 2016)を元に解説を行っていきます。


A、B二つのグループに分けてトレーニングを行い1RMと最大挙上スピードの向上を比較しました。

●Aグループ
85%1RMでのベンチプレスを任意のスピードでFailure(もう挙上できないところ)まで追い込むセットを2分間の休息を挟みながら繰り返し、1レップも挙上できなくなるセットが発現するまでその日のセットを継続するという方法を週2回、計3週間トレーニングさせたグループ。

●Bグループ
Aグループと同様に85%1RMのベンチプレスを最大スピードで挙上を反復し、そのセットにおける最大スピードから20%低下した時点でセットを終了する。2分間の休息を挟みながらセットを繰り返し、その日計測された最低スピードを1レップ目から発揮できなくなった時点でその日のトレーニングを終了するグループ。

これらのうち、Aグループは1RM、最大挙上スピードの両方において有意な向上が見られなかったのに対し、Bグループはどちらとも有意な向上が確認されました。


ベンチプレスとスクワットのトレーニングを3つの時期に分け、計16週間のトレーニングを2つのグループで1RMと最大パワーの向上を比較しました。

●Aグループ
最初の6週を10RM(10回でFailureを迎える重量)でFailureまでの反復を3セット、次の5週は6RMでFailureまでを3セット、最後の5週は5RMで2~4レップを3セット行ったグループ。

●Bグループ
最初の6週を10RMで5レップ6セット、次の5週は6RMで3レップ6セットを最大スピードで挙上、最後の5週はAグループと同様に5RMで2~4レップを3セット行ったグループ。

この二つのグループはともに1RMの向上は見られませんでした。

しかし、Bグループのみ最大パワーの向上が確認されました。

このように、Failureを迎えるまで行うトレーニングは特にパワーやスピードといった要素に対してはネガティブな要因に繋がってしまうことがご理解いただけるかと思います。

他の研究においても、Failureまで追い込ませることはセット終盤において著しい挙上スピードの低下を招き(=力積の低下)、骨格筋の損傷度の指標とされるクレアチンキナーゼの上昇を48時間後まで続かせ、疲労の指標である血中乳酸濃度やアンモニア濃度の上昇とそれらの回復の遅れが報告されています。

このことからも、筋パワーの向上を目的としたトレーニングにおいては追い込ませないこと(挙上スピードの低下を招かないようにすること)を重要視してトレーニングさせることが重要なのです。

パワートレーニングのパラドックス(減速局面に関して)

パワートレーニングにおいて重要なことはコンセントリック局面での力積を積み上げることとお話ししましたが、シンプルなウエイトトレーニングだと力積の積み上げを阻害する要因が発生してしまいます。

これが『減速局面』というものです。

例えばスクワットを行うとして、ボトム(一番しゃがみ込んだポジション)からトップ(一番立ち上がったポジション)まで行う際に、バーのスピードはボトムからすぐは加速し続けますが、トップに近づくにつれて減速してしまい、トップではコンセントリックな速度は0になってしまいます

この減速局面は100%1RMにおいてはコンセントリック局面の24%、81%1RMにおいては52%を占めてしまう(Elliottら 1989)と報告されています。

パワートレーニングでさらに軽い負荷でトレーニングを行う場合の減速局面は上記よりも増加することが考えられるため、パワートレーニングの定義から逸脱してしまう可能性も考えられるのです。

これに対して推奨されるトレーニングがバリスティックトレーニングと呼ばれるものです。

バリスティックとは日本語に直訳すると『弾道の』『飛行物体の』となり、トレーニング方法としてはジャンプスクワットやベンチスロー、メディシンボールスローなどが挙げられます。

こちらの図はスミスマシンを用いたベンチスローとベンチプレスのバーのピーク速度を比較したものです。

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これをみると30~60%の範囲においてベンチスローの方が有意に速度が高いことが分かります。

これはジャンプスクワットでも近い効果があることが考えられるため、特に低負荷のパワートレーニングにおいてはジャンプスクワットを用いた方が良い可能性が高いことが推測されます。

一方でバリスティックトレーニングのデメリットとして、着地衝撃が大きく怪我のリスクに繋がりやすいことが挙げられます。

またこれに限らずパワートレーニングではピーク速度を重要視するため、速度を高める努力ができない選手に関しては無駄に怪我のリスクだけを高めてしまうことになってしまうので注意が必要と言えます。

トレーニング変数

この章では各目的におけるトレーニング変数について解説していきます。

ここで扱うトレーニング変数とは、

・重量
・レップ数(挙上回数)
・セット数
・レスト(セット間休憩)
・頻度(何時間空けるか)

これらのことです。

動画で話している内容を簡単な表にして表すと以下のようになります。

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重量とレップ数に関してですが、筋肥大においては1RMの測定の際に用いた図のようにちょうど狙った回数で限界を向かえるような重量設定にしていきます。

最大筋力と筋パワーにおいては4回を目安にして前々章に記述したように追い込ませないことが重要となります。

セット数に関しては後述のピリオダイゼーションのところで細かく話していきます。同様に回数の細かな設定(8回なのか12回にするのかなど)もその章で解説を行っていきます。

レストは基本的に長い方が良いとされています。

特にパワーのトレーニングにおいては力積を高める必要があるため長めを推奨しています。レストが短いと力積の蓄積が行いにくくなってしまうからですね。

あまり長く取りすぎると筋温低下を招いて怪我のリスクやトレーニングパフォーマンスの低下に繋がるので、おおよそ3~5分を目安とします。

頻度に関しては24時間を目安としますが、ここは主観的評価に基づくべきだと考えています。

トレーニング効果を落とす要因としてDOMS(遅発性筋肉痛)が挙げられます。

ただ、DOMSが0になるまで待つ必要はなく、10段階評価で最大の筋肉痛を10、筋肉痛が全くない状態を0とした時、6以下の場合はトレーニングを行わせても良いと考えます。

筋肥大において重要な要素

筋肥大の効率化を図る際に考えていただきたいことは『エキセントリックの意識』『Failure まで追い込む意識』です。

①エキセントリックの意識

筋肥大はコンセントリックよりもエキセントリックで高い向上が見られる(Higbieら 1996)との報告があります。

これは確証されていませんが、筋肥大においてはタンパク合成が高まることが必須条件であり、そのシグナルをオンにすることが重要です。これに関して、筋中のmTORというタンパク質が活性化するとタンパク合成が促されやすくなるのですが、これがコンセントリックよりエキセントリックの刺激からの方が活性されやすいと言われています。

そのため、筋肥大をメインとさせたトレーニングにおいてはエキセントリックを強く意識させたトレーニングを行うべきと考えられます。

②Failure まで追い込む意識

数年前までは筋肥大においては限界まで追い込ませることが重要と考えられていました。

しかし近年の研究において、Failureまで追い込ませたセットと追い込ませる一歩手前のセットとでは筋肥大において有意な差は存在しないとの報告があります。

僕のこれに関する見解ですが、追い込ませるようなトレーニングは筋肥大においては必要だと考えています。

精神論はそこまで好きではありませんが、トレーニングで限界まで追い込ませることで培われる能力もあると思っています。
特にそれは走りのトレーニングや試合中における土壇場での粘りに繋がってくると感じているため、肥大期ではわざと追い込ませることもしたりします。

また、選手個人にメニューを作成して行ってもらう際においては特に追い込ませる意識を持ってもらいます。

1人でトレーニングを行う際には限界まで追い込ませるような意識を持っておかないと筋肥大の効率が高まるようなところまで達することができなかったりするからです。

一方で、科学的な背景を優先する場合も存在します。

それはシーズン中でパフォーマンスを落としたくない中で肥大トレーニングを挟む場合です。

この場合においては疲労に対する筋肥大の効率を最大にもっていくためにプロトコルを作成していきます。

ただ、最大効率を求める際にはウエイトの挙上スピードを測るデバイスが必要となるため、それを持っていない方は行いづらいので注意が必要です。

最大筋力向上において重要な要素

最大筋力を向上させるトレーニングにおいて重要となることは

最低85%1RM以上の負荷で行い、最大挙上スピードに対して80%を下回らないようにすること

です。

これは全セットに対して適応されます。

そのためトレーニングを組む際には、

・1RMに対して85%の重量を下回るセットをつくらないようにする=最初に設定した重量からなるべくセット間で重量を下げないようにする
・挙上スピードが落ちないようにレップ数は最大でも4回あたりに設定する
・上記を達成させるためにレストはなるべく長めにとる=3~5分

これらが求められます。

超回復理論 vs フィットネスー疲労理論

ここまででおおよそのトレーニング理論について触れていきました。

ここからは実際にシーズン中やオフシーズンでどのようにトレーニングを組み込んでいくのかについて解説を行っていきます。

その際にぜひ押さえておいていただきたい考え方が『フィットネスー疲労理論』と呼ばれるものです。単発のトレーニングでしたらこの考え方はあまり必要ではありませんが、中・長期的にトレーニングを行っていくのであれば必須の考え方となります。

基本的にトレーニングでフィジカル能力が引き上がるメカニズムは完全には解明できていません。

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能力向上のプロセスとしては、

トレーニング刺激(入力)によって、身体の中で何かしらの反応(ブラックボックス=解明されていないこと)が起き、その結果として身体が適応(出力)して変化が生じる

というイメージになります。

現代のトレーニング科学において『なぜこの反応・適応が起きるのか?』を完全に解明しているものは非常に少ないです。

しかし、入力や出力に関してはある程度解明されています。

例えば、80%1RMの負荷で8回3セットという入力を加えると、筋肥大という出力が起きるといったように。

冒頭に記載した『フィットネスー疲労理論』とは先ほどの図の出力が時間の経過とともにどのように変化していくのかを説明した理論になります。

まずは似たような概念として『超回復理論』を解説していきます。

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この理論を簡単に説明すると、

トレーニングを実施した直後は疲労や筋へのダメージによって一時的に体力レベルが低下する。
その低下が次第に回復していき、トレーニング前の水準まで戻り、さらに時間が経つとトレーニング前の水準を超えてより高いレベルに到達する。

つまり超回復理論とは4つのフェーズから構成されているのです。

・トレーニング前より体力レベルが低下する(疲労)
・トレーニング前の体力レベルに戻る(回復)
・トレーニング前の体力レベルを超える(超回復)
・再びトレーニング前のレベルに戻る(超回復の消滅)

この理論においてはトレーニングという入力に対して出力が体力レベルという一つの要因としてそれが増えたり減ったりするので、『一元論』と呼ばれたりします。

この理論に基づくと、超回復が起きている最中に新たなトレーニング刺激を加えることがパフォーマンス向上には重要となります。

逆に刺激を加えるのが早すぎたり遅すぎると体力レベルは下がってしまうということに繋がってきてしまうわけです。

実はこの理論、認知度は高いものの、理論の正確性や有用性の観点から疑問の声があがっているものなのです。

対して今回紹介する『フィットネスー疲労理論』を紹介していきます。

先ほどの超回復理論に対してこれは『二元論』と呼ばれたりしています。

ここで登場する2つの要因とは『フィットネス』『疲労』です。

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図に表すとこのような感じになります。

この理論においては

トレーニングを行うとフィットネスは向上する。一方で疲労は蓄積する。
前者はプラスの要因、後者はマイナスの要因として働き、その合計が図でいうコンディショニングレベル(=体力レベル)として表される

ということになるのです。

ではフィットネスと疲労がそれぞれ時間の経過とともにどのような変化を示すのかをチェックしていきます。

まずはプラスの要因である『フィットネス』からみていくのですが、基本的に筋力や持久力といった生理学的なフィジカル要素は一気に向上することはありません。
つまり、『フィットネスは急激には変化しない=一度のトレーニングでの向上は少ない』ことが考えられます。

その代わり、一度のトレーニングで得た向上効果は比較的長い期間にわたって継続します。
つまり、『フィットネスの経時的な変化はゆっくりである』ことが考えられるのです。

次にマイナスの要因である『疲労』についてみていくと、一度のトレーニングで疲労が大きく蓄積してトレーニング直後にパフォーマンスが低下するというのを誰しもが経験しているように、『疲労は一気に蓄積される』ことが分かります。

その代わり、一度のトレーニングによって発生した疲労はずっと残っているわけでなく、時間の経過に伴って比較的素早く減っていきます。
つまり、『疲労の経時的な変化は素早い』ことが考えられるのです。

それを踏まえた上で先ほどの表を見ていただきたいのですが、トレーニング直後では『フィットネス』の増加量に対して『疲労』の増加量が大きいため結果としてコンディション(体力レベル)は一時的に下がります。

その段階では『フィットネスレベルは向上しているが、疲労によって覆い隠されてしまっている状態』と捉えることができるのです。

その後時間の経過とともに向上したフィットネスは低下していきますが、それ以上のスピードで疲労が消えていくので結果としてコンディションレベルは引き上がっていきます。

この二つの要因によってコンディションが決定されることが『フィットネスー疲労理論』なのです。

これら二つの理論は一見似たように見えて大きく異なります。

仮に『超回復理論』を元にシーズン中のトレーニングを組むとします。

超回復理論では試合を逆算して大きな刺激を入れ、超回復真っ只中のところにちょうど試合がぶつかるように調整していく戦略を取ることになります。

例えば、週あたりで考えるとしたら、週の頭に大きな刺激を加えて、コンディションが戻るのを待つ、といったことになります。
月単位で考えるとしたら、開幕の1ヶ月前にかなり大きな刺激を数日にわたって加え、1ヶ月かけて超回復を起こさせる、みたいな感じです。

一方で『フィットネスー疲労理論』を元にシーズン中のトレーニングを組んでみます。

この理論に基づくと、いかにフィットネスを維持させつつ疲労を減らすか、という着眼点の元トレーニングを推し進めることになります。

超回復理論ではトレーニングと休む期間を明確に分ける戦略を取ります。要するにオンオフをはっきりさせるのです。

それに対してフィットネスー疲労理論では負荷を抑えたトレーニングを試合直前まで高い頻度で行っていくという戦略をとることになるのです。

この考えだと頻度をある程度維持させることができるため、疲労を溜め込まずにフィットネスを維持させることが可能となります。

以上のことから、シーズン中においてもトレーニングの頻度をなるべく落とさず、フィットネスを向上させることのできるトレーニングメニューを組むことが重要となってくるわけです。

マクロ・ピリオダイゼーション

この章では月単位におけるトレーニングメニューの組み方について考えていきます。

そもそもの言葉の意味として、ピリオダイゼーションとは『期分け』という意味があります。

ここでいう『期』とは

筋肉を大きくさせることをメインとする『肥大期』
1RMの向上をメインとする『最大筋力期』
筋パワーの向上をメインとする『パワー期』

これらに大きく分けて考えていきます。

これらを比較していくと

疲労の溜まりやすさは
パワー期<最大筋力期<<<肥大期

パフォーマンスに直結するものは
肥大期<<<最大筋力期<パワー期

このようになります。

よって大事な試合、もしくはシーズン開幕などに合わせて
肥大メイン→最大筋力メイン→パワーメイン
とさせていったりします。

もちろん選手によって伸びしろとなるところは異なるため、肥大を取り入れなかったり、パワートレーニングを長く続けたりする場合もあります。

また、これらの期は完全に切り分けるは必要なく、徐々に次の期へと移行させていくことが成功の秘訣だったりします。

大城蛍202112~肥大

 

こちらはプロ選手への肥大期のトレーニングメニューです。

彼の場合はシーズンが終わって、10日ほどオフを挟んでトレーニングを再開させました。

トレーニング歴は半年ほどで、疲労が溜まりやすいような選手であったため慎重にトレーニングメニューを組み立てています。

このように疲労の蓄積を確認しながら負荷を臨機応変にコントロールしていくことがマクロ・ピリオダイゼーションにおいては重要です。

続いて、それぞれの期をどのくらいの期間差し込んでいくのかという点についてです。

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基本的に肥大期中は上の図のようにパフォーマンスレベルは一時的に落ちてきてしまいます。

肥大期は筋を増やすように食事バランスを変えていきますが、筋が増えるアナボリックという状態は筋と同時に体脂肪も増えやすい状態になります。一方でその体重の増加に対して筋パワーの向上が薄いため、一時的に身体が重くなるという感覚を得ます。

このパフォーマンスの低下に関してはマクロ・ピリオダイゼーションを取り入れていくにあたって選手に必ず説明するようにしています。

このパフォーマンスの一時的な低下は最大筋力期、パワー期を経るにつれて解消されていきます。

それぞれの期を入れる目安の期間としては

肥大期の期間と同等もしく倍程度の期間、最大筋力期とパワー期を入れる

というのがしっくりくるかなと思います。

シンプルな例だと、肥大期を2ヶ月、最大筋力期を2ヶ月、パワー期を2ヶ月のような感じです。

最大筋力の向上をあまり図らなくていいような選手でしたら肥大期2ヶ月、パワー期2ヶ月のような感じになります。

それぞれの期の間は明確に区切るのでなく、徐々に移行させていくようにしていくようにしてみてください。

具体的な期間の数値の決め方は、何を目的として、目的の優先順位、またどのくらいの期間を目安にするかによります。

例えば大学1年生でピークパフォーマンスを3年次にもっていきたい場合は肥大期をしっかりととるようにしたり、高校3年のラストシーズンで大事な大会まで半年という場合は1ヶ月ずつの期分けを2周させるようにしたりとか。

ここに関しては本当に人それぞれであり、実際に行っていくにあたってイレギュラーなパターンがいくつも存在するので、ぜひ目の前の選手に対してよくヒアリングしていただいて決めていっていただければと思います。

ミクロ・ピリオダイゼーション

最後に、シーズン中における週あたりのトレーニング方法についてご紹介します。

もちろん大事な試合がない(=コンディション調整をしなくても良い試合しかない)場合は1週間のトレーニングメニューを期分けにのっとってある程度固定させてもいいのですが、コンディションを整えるべき試合が週末にあるといった場合には1週間のメニューをある程度変動させるべきと言えます。

ここでは2つの考慮していただきたいポイントを解説していきます。

①トレーニングボリューム

シーズン中に最も考慮しなくてはいけないポイントは『疲労』です。

これを度外ししてトレーニングを組むとコンディション調整に失敗してしまったり怪我のリスクを高めることに繋がってしまいます。

これを回避すべく、何か基準を設けると良いのですが、その基準が『トレーニングボリューム』です。

これが何かというと、例えばバックスクワットを1日のトレーニング内で100kg 10回 3セット行ったとします。そうすると

100kg×10回×3セット=3000kg

上の計算式のように1日で計3000kg挙げたことになります。

これを疲労と照らし合わせて適切なトレーニングボリュームを決定させていきます。

実例を示すと、

疲労を10段階評価で毎日つけていただき(10が疲労困憊、0が疲労が全く無い状態)、試合の日に最もいい疲労感であるかをモニタリングしていきます。
ここは心拍数などを恒常的にモニタリングできるとより正確に測定が可能になると思います。

1週目は試合の日までにスクワットによるトレーニングボリュームを計7000kg積んだとします。
その週の試合の疲労感は5で、若干疲労による動きにくさがありました。

2週目は同様にトレーニングボリュームを計4000kg積んだとします。
その週の試合の疲労感は1で、疲労は限りなく少なかったもののフィットネスー疲労理論の観点からフィットネスの向上が薄い週になってしまいました。

3週目は同様にトレーニングボリュームを計5000kg積んだとします。
その週の疲労感は3で、最もバランスのいいフィットネスと疲労のバランスで試合に臨めました。

このように微調整を行っていきながらトレーニングボリュームを決定させていくことでフィットネスを向上させつつ、疲労を最低限の蓄積にとどめることができるので古典的ですがおすすめの方法になります。

②テーパリング時に減らしていい要素と減らしてはいけない要素

テーパリングとは直訳すると『先細り』のような意味で、トレーニング用語では大事な試合に向けてトレーニング負荷を減らしていくことを指します。

疲労を限りなく取り除きながらフィットネスを引き上げるために、週あたりだけでなく月あたりにおいてもテーパリングは取り入れていくべきなのですが、落としてはいけない負荷というものが存在します。

負荷として挙げられるものは『強度』『量』『頻度』、これらの変数です。

これらの変数をどのように定めていくのかについて、Bosquetら(2007)は以下を推奨しています。

・強度はなるべく維持する
・量を41~60%程度減らす
・頻度をできるだけ(80%以上)維持する

ここでいう強度とは、1RMに対する割合のことで、先行研究においては強度を減らすことはパフォーマンスにプラスには働きにくいことが報告されています。

疲労を減らすという観点のみでしたら強度を減らすことはプラスの方向に働きそうですが、フィットネス向上という観点も含めると、強度を減らすことは総合してパフォーマンスに対してプラスの影響は与えにくいことが考えられます。

実際のトレーニングに置き換えるとしたら、オフシーズンに対してシーズン中のトレーニングでも挙上重量は変えない(むしろ向上させていく)ことが重要と言えるのです。

続いて量についてですが、これは前述したトレーニングボリュームに当てはまります。

トレーニングボリュームの減少割合を変えてパフォーマンスへの影響を調べた先行研究では41~60%の減少が最もパフォーマンスに対してプラスの影響を与えました

この減少率ですが、何がなんでも41~60%の間というわけでなく、21~40%の範囲でもパフォーマンスに対してはプラスの影響を与えていました。
しかし、減少率が20%以下だとパフォーマンスに対しては変わらないかむしろマイナスの影響を出してしまうことも報告されています。

実際のトレーニングにおいては、トレーニングボリュームを大事な試合の週では41~60%減らす、または週の序盤のトレーニングに対して試合1~2日前のトレーニングのボリュームを41~60%減らして実施させるということが重要と考えられます。

サッカーは単発で試合が終わることがほとんどないため、僕は後者の方法を用いてトレーニングボリュームのコントロールを図ります。

最後に頻度ですが、これは週あたりのトレーニング回数です。

これに関しては研究対象にすることが難しいため(頻度を落とすと強度や量も必然的に減少してしまうため)、エビデンスとしては弱い部分であるのですが、頻度はほんの少し落とすくらいにするのがいいというのが現段階における結論となります。

例えば、週5回オフシーズンでトレーニングしていたのなら4回に減らす、といった感じです。

③シーズン中の実例

こちらのファイルはJ3選手のオフシーズン〜シーズン突入までのトレーニングをまとめたものです。

J3選手実例

7月末に前半のシーズンが終わり、一時的にシーズンが中断となり、9月14日にシーズン後半戦が再開しました。

誰に見せるわけでもなく、自分で管理していたものなので多少見にくい部分もあると思います。特に8月からはVBTデバイスを取り入れてトレーニングを実施しているので、今回取り扱っていない数値に関しても含まれてしまっております。

また、これ以外でも自分でパワー系のトレーニングは入れてもらっていたりしていました。

この選手のようなパターンだと、

日:リーグ戦
月:off
火:最大筋力トレーニング
水:ムーブメントトレーニング
木:(筋パワートレーニング)
金:(筋パワートレーニング)
土:(筋パワートレーニング)
日:リーグ戦

木〜土の筋パワートレーニングは可能であれば分散させて行っていき、試合の前日でも2レップ×2セットくらいのスクワットは入れてもらっていました。

まとめ

今回はサッカー選手のためのウエイトトレーニングについて解説していきましたが、これに関してはまずご自身で実践してみることをおすすめします。

また、選手によって正解が異なることも多々存在するので、あくまでも目の前の選手と、その数値から最適解を導けるように経験を積み重ねていっていただけたらと思っております。

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